入水

家の人にバレずに出ることは僕にとって容易かった。


学校もすんなり入れた。


ってかプールは学校の柵の外にあるから学校の敷地に入る必要なんてなかったけど、悪いことしてる気持ちと夜に来る謎のテンションのせいで、思考がうまくまわらなかったのだ。


まあいいさ、そんなことより予想外の事態。


もうすぐ22時になるというのに、田中先生の車がある。


なんでだ?だいぶ疑問に思いつつ、プールの方へ向かう。


こんなことを考えるのもアレだがもしかしたら今なら水着を着ずに素っ裸で入れちゃうのでは?


 はっはっはー、普通にやだわーー。


ん?田中先生だ...。まずい!。


「あれ?***君じゃないか」思ったよりも優しい声で話しかけてきた。


というよりも動揺?していたのだ。僕も動揺していた。


「えーとー、何をしているのかな?」


まだ動揺が残った声で聞いてきた。


「あはは、実はですねえーー泳ぎの練習をしようかとーーー」


「そうなのかー確かに***君はちょっと泳ぎが苦手に見えるね」田中先生は体育を教える先生なのだ。


「いいよ、特別に泳いでも」


やっぱりいい先生だなー。


水着は履いてきてたので、上脱いでゆっくり入った。


泳いではみるがすぐ溺れかける。


はあつらい。


「もっと背中をそらすんだよ」田中先生は教えてくれた。


その通りにしてみると、これが意外にもいけたのだ。


意識してみればちょっとだけ泳げたのだ。


嬉しかった。


その日から他の人には秘密で田中先生と特訓をした。


時間は夜。他の先生方が帰った後の時間。


腕を伸ばす、顔を下に向ける、一つ一つ覚えていき、上達していった。


だがしかし、息継ぎはあまり上達しなかった。いや全く上達しなかった。


泳ぐ距離も実は十メートルもいかなかったのだ。


だが、田中先生は些細な成長を褒めてくれた。


終業式の夜も特訓があった。


いつも通りの時間、いつも通りの特訓。


なんとこの時、10メートル泳げたのだ。


嬉しかった。


田中先生も笑顔だった。笑顔だったんだ。


プールサイドにあがる。


疲 れた。


息が しづら かった


ゆっくり 呼吸を 整える。


タオルを取りに行こうと立ち上がった。


そのとき、強く押された。


プールサイドから強く押された。


 『ばああん』


と耳が痛い音がした。


呼吸が整いきってない。


溺れる。


そのとき、田中先生が飛び込んできた。


助けてくれたのだ。


僕はてっきり田中先生が押したのかと思った。


僕は情けない。


田中先生がそんなことするわけない。


そして僕は泣いてしまった。


恐怖と情けなさに押しつぶされて田中先生に抱かれて泣いてしまった。

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