第16話 大月千尋 13歳 ー勇気を出して④ー

 朝、登校して教室に入ると、今日も国見君は佐伯君と何やら話をして盛り上がっている。


 昨夜、電話であんなに自然に話せていたことがうそのように、とても自分から声をかけられる気がしない。クラスメイトがいるせいなのか、直接顔を合わせるからなのかわからないが、目の前に国見君がいても縮こまってしまって声をかけられない。


 結局、声をかえられないまま放課後になってしまったが、国見君も同じような心境なのか、声をかけてはこなかったし、ほとんど目も合わなかった。


 昨夜の電話で少し距離が縮んだような気がして嬉しかったが、今日になってみると今までと少しも変わらない距離感に少し気持ちが落ち込みそうになった。


 しかし、交換日記ができるのだからと自分を励まして、家に帰った。


 学校から家に帰ると、さっそく交換日記用のノートを近くの書店に買いに出かけることにした。


 いくら交換日記とは言っても、小学校の頃のようなあからさまな交換日記帳では恥ずかしいので、普通の手帳やノートを見て回った。国見君の好みの色はわからないが、国見君が持っていても違和感のないように、シンプルな青い表紙のB5サイズのリングノートを買うことにした。


 まずは私から最初のページを書かなければいけないが、一体何を書こうか。考えながら家に帰ると、さっそく部屋にこもって机に向かった。


 17時を少し過ぎたところだが、2月の陽はまだ短く、机のライトを点けた。ああでもない、こうでもないと考えている間にすっかり部屋の中は暗くなってしまい、部屋の明かりを点けて時間を確認すると、いつの間にか一時間以上過ぎていた。その後も書いたり消したりを繰り返しているうちに、少しページが黒ずんでしまったが、一応書き終えた。


 内容は昨夜の電話と日記のお礼、学校での出来事や国見君への質問などを書いた。B5サイズのページがほとんど埋まってしまうほど書いてしまったが、書きすぎただろうか。本当はもう少し書きたいこともあるが、次回にとっておくことにした。


 誤字や脱字がないかを繰り返し確認して、ちょうどいい大きさの紙袋に入れた。




 国見君が登校する前に靴箱にノートを入れておきたくて、今朝は早起きをした。昇降口に着いて国見君の靴箱を確認すると、まだ上靴が入っていた。ノートは紙袋に入れたまま国見君の上靴の上にそっと置いた。


 教室で自分の席に座り、次々と入って来るクラスメイトたちを眺めていると、国見君が入ってきた。右手にはノートを入れた紙袋を持っていて、無事に国見君に渡ったようで安心した。


 靴箱には扉がついているわけでもないので、誰かにノートを持ち去られる可能性もあるし、中身を見られたら恥ずかしすぎる。


 一瞬、国見君と目が合ったが、すぐに視線は離れてしまった。


 この日も国見君と話をすることはできないまま一日が終わってしまった。


 バレンタインデーから日に日に気まずくなっているような気がするのは私だけだろうか。国見君を意識しすぎてしまい近づくこともできなくなってきているし、国見君も私のほうに近づかないような気がする。「告白しないほうがよかったのかも…」という気持ちが一瞬脳裏をよぎったが、そんなことはないと自分に言い聞かせた。



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