第14話 大月千尋 13歳 ー勇気を出して②ー

 朝、昇降口で靴箱から上靴を出すと、上靴の中に四つ折りになった紙が入っていた。ドキッとしたが周りに気づかれないように紙を手の中に握りしめて、教室に向かう廊下でそっと開いてみた。


[〇〇〇―〇〇〇〇―〇〇〇〇  親のケータイだけど20時~21時の間くらいなら電話に出られると思う]


 電話に出られる時間も書いてくれてあり、「やった」と思いながら教室に入ると、国見君と目があった。お互いに一瞬固まってしまったが、すぐに目をそらして私は席についた。国見君は佐伯君と何かのゲームの話で盛り上がっているようだ。


 どうしてすぐに目をそらしてしまうのだろう。「おはよう」と自然に声をかけられたらいいのに、妙に意識してしまって、あいさつさえうまく交わせなくなっている。国見君も声をかけてきてはくれないし、なんとなく気まずい感じがするが、今夜電話をかけてゆっくり話ができればいいなと思いながら一日を過ごした。




 国見君に電話をかけるという緊張から、夕飯はあまりのどを通らず、味を感じている余裕もなかった。父親から「食欲ないのか?」と心配されたが、母親が「心配ないよね、千尋」と代わりに応えてくれた。


 母親には国見君のことを話していて、バレンタインデーのクッキーやケーキ作りも手伝ってもらっていた。今夜、国見君に電話をすることも伝えてある。


「ごちそうさま」


 電話をかけようと考えている20時まではまだ一時間ほど時間があるが、落ち着かないので自分の部屋に戻ることにした。


 MDステレオのスイッチを入れて好きな音楽を流してみるが、右から左へ耳を撫でていくだけでまったく頭に入ってこない。ベッドに腰かけて読みかけの小説を開いてみても、何度も同じ場所を読み返してばかりでこれも頭に入ってこない。結局、ベッドに寝転がって、国見君との話題を考えているうちに少しずつ時間が過ぎていった。


 20時を少し過ぎたところで、いよいよ電話をかけてみることにした。ベッドに座り、ケータイを開いて教えてもらった電話番号を打ち込んでいく。心臓が高鳴り、指先が少し震えて、自然と背筋が伸びる。


―――あぁ、緊張するなぁ。

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