第2話 国見青音 35歳 ー冬ー


「初めて話したときのこと、覚えてる?」


 電車の車窓から差し込む朝日に、目を細めながら大月さんが言った。


「いや、覚えてないな」


 中学に入学し、初めて出会ったときに席が隣だったことは覚えているが、初めて交わした会話までは覚えていない。


「私は覚えてるよ。すごい印象に残ってる」


 もともと細い目をさらに細めて、笑いながら大月さんが言った。


「どんなこと話したんだっけ?」


「入学式の後でね、学級委員長を決めるときに、国見君が急に声をかけてきたんだよ。あんたがやればいいじゃんって」


「マジか。初対面なのに、俺そんなこと言った?」


「うん、びっくりしたから印象に残ってる」


 いくら中学生だったとはいえ、初対面の相手にそんなぶっきらぼうな言い方をしていた自分に驚いた。


「今じゃ絶対にそんな声のかけ方できないな」


 そう言ってお互いに笑った。


「あれからもう20年以上経ってるなんて信じられないよね」


「そうだな。いつの間にか30代半ばだもんなぁ」


 電車の天井を見上げながら言った。


「お互いおじさんとおばさんになっちゃったね」


 そうだな、と言ってみたが、隣に座っている大月さんを見てもおばさんには見えない。細身で背が高く、中年太りとは無縁に見える。しかし、10代や20代の頃と同じかといえば、そういうわけでもない。初めて出会ってから23年という月日が過ぎて、何もかもが変わったのだと思う。


 しかし、今でも大月さんは綺麗だなと思う。

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