第3話

 この本を書くのも随分と慣れてきた。この紙もペンもインクも安物で書きにくいったらない。心の方もだいぶ落ち着いてきたし、もう少し詳細に書くように変えるつもりだ。小説なんて書いたことないけれど、小説風に書いてみようか。きっと将来僕が記憶をなくしてしまっても小説風なら読みたくなるかもしれないし、共感して、記憶を取り戻す手助けになるかもしれない。ただ、一つ言っておこう。一部脚色が含まれていると。特に僕が立ち会わなかった場面はほぼ妄想で出来ていると言っても過言じゃないから。

 さぁ、前置きは程々にして、僕の話の続き、聞いてくれるかな?


 彼女と僕は公爵領の門をくぐり、公領へと出る。公領って何かって?実を言うと、この国の領土は少し特殊なんだ。

 この国は、まず王族が収める王都があって、そこには貴族の別荘と貿易や商売関連の建物しかなく、貴族と商人以外住むことができない。だから王都としてはあまり規模も大きくないし、それに、それだけしかないから、「活気がある」「煌びやか」という言葉とはちょっと遠い。

 それで、貴族の領土は所謂「町」のことだ。そしてそれ以外の土地が公領。このようになっているのは、資源を持つ領土がそれを高値で独占販売する可能性を排除するためだ。公領では誰でも自由に資源を取ることができる。ただ、争いが起きる事もあるけれど、「弱肉強食」の世界であるとして争いが起きるのは仕方がない事だと割り切られている。

 貴族領はあくまで「町」でしかないので資源を持つことは基本的に無い。爵位による領土の違いは、大きさ、課税、王都との距離の近さなどである。資源は王都から離れたところにも数多く点在しているため、資源の点においては地位によって差が生まれることはない。

 …まぁこの辺にしておこう。どうせ資料だって残ってるだろうし、気になったらそっちを見てくれ。改竄がある可能性もあるが。もしこれを読んだ人が無知だって言うなら今の情報だけ分かっておけば問題はないはずだ。問題があれば僕がきちんと補足する。

 僕らがこれから向かうのは王都である。王都の貿易商の手伝いで稼いでいる人たちがいるからだ。王都は公爵領にも近いし、それに僕らの怪しい動きがバレた時に一番行動しにくいのは王都だからだ。王都ということもあり警備もしっかりしているし、王都で大きな行事がない今こそがチャンス。それにバレる前なら別荘を使う事もでき、野宿せずに済む。

 僕らは公爵家から一頭の馬しか貸してもらえなかった。ガタイが一番いい馬であることと僕と相性の良い馬であることが救いだ。紙はかさばると結構重たくなるし、そもそも僕とカミーユの2人を乗せなくてはならない。紙以外の荷物だってあるわけだし。こんなにいい馬を貸してもらえると言うことはまだ怪しまれていないと考えてもいいだろう。

「ねぇ、リュカ。本当に私、着いてきてよかったの?すっごく今更な話なんだけど」

 僕の前に座っているカミーユが僕に尋ねる。今日の彼女はいつものドレスとは違い、動きやすい、見慣れない格好をしている。若い奴らの言葉で表すとすれば、短パンとニーハイだろうか。僕が綱を握っているという事もありバックハグをしているような感じもして実はだいぶ恥ずかしいのだ。だから、

「あっ…え、ごめん。考え事してて聞いてなかった」

 僕には彼女の声がイマイチ聞こえていなかった。すると、彼女が優しくもう一度言ってくれた。

「私がいても本当に平気なの?って言ったの。着いてきたのだって私の我儘だし、足手纏いにならないように努力はするつもりだけど、少し不安で」

 僕は片手を綱から外して彼女の頭を撫でながら言う。

「大丈夫、カミーユ。何年僕と君は一緒に過ごしてきたと思ってるの?それに僕は君が来てくれるって言ってくれてとても嬉しかったんだ」

 彼女の肩から力が抜けたように感じる。僕は話を続ける。

「僕達みたいにスラム街の人々を救いたいと思っている人は全然いないし、いたとしても周りの空気のせいで言えない、行動に起こせない人が多い。そんな中で一番周りの空気的に行動を起こしにくい君が動いたんだ。だから凄く嬉しい」

 僕が彼女に恋愛的な感情を抱くようになったのはこの頃からだった。決して短パン×ニーハイの姿に一目惚れしたわけでは無い。彼女の信念、正義感の強さに惚れたのだ。公爵家に有利な情報ばかりをこれまでの勉強で教えられてきたにも関わらずこちら側に着いた。このような人間に出会ったのは彼女が最初で最後。

「なら良かった」

 彼女は安堵の声を漏らす。きっと今彼女は微笑を浮かべているに違いない。

 もうしばらく馬を走らせていたら王都が見え始めた。やはり小さいと言えば小さいが、いつもこの景色を見る度少し驚いてしまう。公爵領から王都へ向かう道から見た王城が一番角度的に美しく見える。カミーユも感嘆の声を漏らす。

 だが今回は大切な仕事で訪れる。王都に着く前までに気持ちを落ち着けなくては。

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