うそみたいな事実

 人口約1000人ちょっとの小さな町に私たちはやってきた。おとうさんは、この近くの市に新しくできた支部の支部長になるべく、あわただしく準備やら何やらを始める。私も、おかあさんと制服の採寸や教科書の購入などの手続き、近所さんに挨拶なんかをしていたら、いつの間にか3月が終わり、4月を迎えようとしていた。


 そんなある日の朝。お家の近くにある砂浜で錨や珊瑚の絵を砂に描いていると、

「あの……」

と声をかけられた。この時、素直に顔を向けるだけで良かったのに、絵を見られた恥ずかしさが込み上げてきて、

「ひゃいっ!」

とつい情けない声を出してしまった。余計に恥ずかしいながらも、声の主の方を見ると、そこには……


 私がいた。

 ううん、私のそっくりさんがいた。


「……えっと」

「すみませんすみませんっ!」気づいたら私は全力で謝っていた。

「えっ?」

「変な絵を描いていたから声をかけられたんですよね?すみません!」

「いや、違います」

「へ……?じゃあ一体……」

よかった。絵の関連じゃなかった~。じゃあ、何の用だろう。

「えっと、実は、3年前に姉が家からいなくなってしまって。」

「……え?」

「それで、あなたを見て、姉に似ていたのでつい声をかけてしまいました」

「なるほど……そうですか……それはお辛いですね……」

「はい。姉はとても優しくて、いつも私を大事にしてくれました。」

海を見ながら目を細めて懐かしむようにしているこの子。本当にお姉さんを大事に思っていたのだとひしひしと伝わってくる。



「……ところであなたのお名前は?」

「莉子です。鈴原莉子。4月から近くの高校に通います…」

「一緒!」

「えっ?!」

「私は高月永遠たかつきとわって言うの!莉子ってこの辺の子?」

「ううん。最近引っ越してきたの。九州から…」

「九州っ!」

「うん」

「九州のどの辺?お話し聞かせて聞かせて!」


 そのあと、2時間くらい永遠ちゃんと話をして、クラスが同じになったらいいね!という話をして解散になった。もっとも、私の行く学校はひと学年に2クラスしかないから、叶わない話じゃない。


 永遠ちゃんと話していて、すごく楽しかったし、なんだか気持ちが落ち着いた。


 もしかしたら、昔の私には、妹がいたのかもしれないな。

それにしても…。高月……。高月……?どこかで聞いたことあるような、ないような……

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