第65話 個別試験

先輩はその後、被害届を出し、その塾も退職した。

ヒビキさんがいなければ、泣き寝入りしていただろう。



「まあ、被害者としてはちょっと面倒だけど、この経験がリョウスケの勉強にもなればね。」


先輩は苦笑いして言った。


俺は、すっかり警察官になることを目標にしていた。




警察官を目指すことを、ハルマとタツオミにも話した。


「リョウスケは優しいから、弱い人の味方になってくれそうだね。」


「ハニートラップには気をつけろよ。」


と、二人がいかにも言いそうなことを言った。




――――――――――――


目標が決まった俺は、一層勉強に集中できた。


タツオミの勉強会は秋まで続き、冬からは自学に切り替えた。

ヒビキさんとカシワギ先輩の勉強会も模試の成績アップにつながり、1月の共通テストでは最高点がとれた。



共通テストの結果が良かったので、初めて親にハルマとのルームシェアについてお願いした。

どちらの親からも許可が出た。

アルバイトはもちろん必要だが、それは最初から考えていたことだ。

あっさり話が進んで、拍子抜けした。



――――――――――――


明日は、個別試験だ。

学校からの帰り道を二人で歩く。


「最後の大詰めだね……。」


ハルマが白い息を吐いて言う。



「俺は……得意の英語と、一年頑張った国語だから、絶対大丈夫。」


「受験でそう言える人、なかなかいないよ。」


ハルマが笑った。



「あとは、受かるだけ!そしたら……またちょっと旅行に行こうよ。」


「うん。行きたいね。」


「二人もいいけど、タツオミとも行きたいな。」


「でも、タツオミは彼女がいるから、誘いづらくない?」


「彼女も一緒に行けばいいじゃん。」


といいながら、俺は、ホテルで別々に分かれる時の様子が思い浮かんだ。

タツオミと彼女が自分たちの部屋に入っていく。

その後にすることなんて、一つしかないだろう。



「やっぱ、ダメだ。嫉妬が止まらない。」


あと、エロい妄想も。



「カシワギ先輩とヒビキさんにも、会ってみたいな。俺は、今は先輩のこと、何とも思ってないからさ。」



カシワギ先輩はあれから、あまりエロい雰囲気は出なくなっていた。

ちょっと残念だけど、ヒビキさんと穏やかにラブラブなのが伝わってくる。



「それこそ四人でどう?」



二人からお礼がしたいと言われていたが、特に希望がなく断っていた。

そこでヒビキさんから卒業祝いも兼ねて、旅行を提案されていたのだ。

その時は、ハルマもぜひと言われていた。



「それ……すごいね。行きたいな。」


ハルマもわくわくしている。



「なんか、試験前に呑気すぎるかな?」


「慌ててるよりマシじゃない?」


それもそうだ。



ハルマの家に着いて、今日はここでお別れだ。


周りを見て誰もいないことを確認し、ハルマにキスをする。



「じゃあ、また明日。」


「うん。またね。」


こうやって高校の制服で会うのも、あと数日を残すのみだ。

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