第27話 たこ焼き

週末、カシワギに紹介された移動図書館のボランティアに参加した。

この図書館は個人の方がやっていて、本自体には詳しくないらしい。



まずは、本の整理だ。

たくさんの寄付された本をめくり、挟んでるものや酷い書き込みがないかチェックする。

かなりの量で根気がいる。



さらに、今の流行りや名作を踏まえて棚に置く本と段ボールにしまう本を入れ替えて行く。


本は重い。

出し入れや移動で、なかなかに体を使う。



お昼は、お弁当を出してくれた。


「いやー、若い人に手伝ってもらえるなんて、ホント助かったわぁ。」


明るいおばちゃんが移動図書館の館長だ。

亡くなった旦那さんの趣味を引き継いだらしい。


「せっかく定年退職して、これから自分の好きなことを……って張り切ってたのに、一年で逝っちゃってね。ホント、無理は禁物よ。長年の無理はたたるから。」


笑って言うが、60代で亡くなるなんて早すぎる。

きっと辛かっただろう。


「二人も、やりたいことは今すぐよ!」


年長者に言われると、勇気が出る。




午後はイベントに来た子たちに絵本を読み聞かせた。


俺はこういう”表現”をする場面は下手だ。

努力はするが、どうにもならない。

子どもたちに申し訳なかった。


かたやカシワギ先輩は上手かった。

先輩は小学校の先生を目指している。

優しい声と口調で子どもたちを楽しませていた。


先輩のおかげで、イベントは盛り上がった。



「すみません、俺、役に立たなくて……。」


「そんなことないよ。子どもたちは喜んでたよ。」


子どもたちの笑顔には癒された。


「お腹空かない?ごちそうするから、なんか食べに行こうよ。」


確かにお腹は空いていた。

先輩おすすめのたこ焼き屋さんに行くことにした。




店内の飲食スペースで、先輩はたこ焼きを頬張った。


「……あれ?食べないの?」


「俺、猫舌なんです。」


「へぇ!初めて猫舌の人に会った。本当に熱いのは、ダメなんだ。」


「そうなんです。辛いのは大丈夫なんですけど。」


「そうなんだ……。可愛いね。」


先輩はどういうつもりで言ったかわからないが、一年前にキスしたことを思い出して、恥ずかしくなった。


たこ焼きを割って、中の熱さを逃す。

慎重に口に入れる。

やっぱり熱くてすぐ水を飲んだ。


先輩からは大学受験のことを聞いた。

やはり三年からは学校の内容も難しくなる。

本当はもっと聞きたかったが、これ以上親しくなるのはばかられた。



帰り際、先輩が言った。


「今日、ありがとね。去年、僕が強引なことしたから……嫌だったよね。ホント、ごめん。卒業前に、謝る機会があって良かった。」


先輩が悲しそうな表情で言った。



「いえ……俺も、普段ちゃんと話せてなくてすみません。」


今なら、カシワギ先輩の気持ちがわかる。

もし、リョウスケに同じように拒絶されたら、傷つく。


「じゃあ、また。委員会で。僕でよければ、受験の話してもいいし。」


先輩は微笑んで言った。

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