第28話 印刷室

あれから、カシワギ先輩と図書室で話すようになった。

あの頃と変わらず親切で、優しかった。



夏になり、三年生が受験勉強でギリギリまで図書室にいるようになる。

この雰囲気は味わえて良かった。


図書委員会からの掲示物を印刷室で印刷していると、先輩が来た。



「最近、リョウスケ君とは一緒にいないの?」


「はい、ちょっとケンカしちゃって。」


「そうなんだ。なんか、寂しそうだから。」


「俺がですか?」


「そう。元気ないよね。男友達とケンカしたくらいでは、そうならなくない?」


返事に困った。


「……あのさ、また、ハルマを困らせるんだけど……。やっぱり、僕はまだハルマが好きで諦められないんだ。僕と、付き合ってくれないかな?」


先輩が切なそうな表情でこちらを見た。


俺も胸が痛い。

先輩がどんな気持ちか、わかる。



「……あの……ズルい返事なんですけど……。付き合うのは難しいんです。でも、先輩と……仲良くしたいとは……思うんです。」


「……友達ってこと?」


「友達以上、恋人未満……的な……。」


「やっぱり……ハルマは恋愛上級者だね。僕じゃわからないけど……。」


先輩は困り顔で笑った。


先輩は俺の肩に手をかけて、耳元に顔を近づけてきた。


「それって、キスはいいの……?」


「……はい……。」


俺は小さく返事をした。


先輩は俺の頭に手を添え、静かにキスをした。


あの時と変わらない、温かくて柔らかい唇だった。



♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢


リョウスケは、先生に頼まれて、印刷室に向かっていた。


そして、見た。


ハルマが、カシワギ先輩とキスをしているところを。



無理矢理されているわけじゃなさそうだった。

複雑な気持ちになった。

どうしたらいいかわからない。


もやもやしていると、他の生徒が印刷室に向かってきた。


俺は身を隠して、大きく咳払いをした。

ちょっと間をあけてチラリと見ると、二人は離れていた。



二人が印刷室を出るまで隠れて待っていた。

ため息しか出なかった。



―――――――――――――


家に帰り、ハルマに電話をした。

出ない。


もしかしたら、今頃、夢中になって二人で何かしているかもしれない。


抱きしめられるハルマ。

キスをされるハルマ。

弄ばれるハルマ…。


相手は、学校一の優男、カシワギだ。

あんなにモテるのに彼女がいないので、ゲイ疑惑があった。


でも、二人なら、お似合いだ。

カシワギ先輩なら、ふらついている俺と違って、ハルマ一筋で優しくしてくれそうだ。


また、ため息しか出ない。

せめて一度話したい。

俺はスマホを開くが、何の反応もなかった。

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