第17話 タツオミの提案
その日、ハルマは家の事情でタツオミの勉強会には来られなかった。
夏休み前の模試が終わり、タツオミに聞きたいことがあったので二人だけだが勉強会をすることになった。
いつもの部屋は親が使ってるらしく、その日はタツオミの部屋になった。
相変わらず、よく片づいている。
本当に住んでるんだろうか。
模試の振り返りの仕方を教わる。
ただ解き直せばいいんじゃないらしい。
今の勉強が、これからの勉強や、受験当日の何につながるか、タツオミはちゃんと言ってくれる。
「タツオミ……本当に、すごいな……。なんか、泣けてくる。」
「なんで?」
「いや、俺みたいな頭が弱い子でもさ、タツオミの言う通りやれば何とかなるんじゃないか、って希望が持てるんだよ。それって、すごいことだよ。」
実際、俺は家でも勉強するようになり、今回の模試も手ごたえがあった。
「……言われても、やらなきゃ意味ないから、それはリョウスケの力だよ。」
「それだって、一緒にやってくれてるからだよ。場所まで貸してくれて。当たり前の基準が変わって、軌道に乗れた気がするんだ。」
「そっか……。あんま、自分では何かした気はしないけど、リョウスケにとって、いい影響があったなら良かったよ。」
タツオミの謙虚さを、偉そうにしている先生たちに見習ってほしいくらいだ。
「ただ、一つ気になるのはさ、ハルマはタツオミにとって、いい影響あると思うよ。でも、俺は……タツオミの時間ばっかりとってさ、あんまタツオミの役には立ってないと思うんだ。出世する予定もないし……。なんでこんなにしてくれるの?」
気になってたことを聞いた。
「……そうだな、友達だと思ってるから。」
タツオミはつぶやいた。
「……うん。うん?うん。わかるような、わかんないような……。」
「俺、小さい頃から、よく”タツオミ君はすごいね”って、言われてきたんだ。何も、すごいことはないんだけど。いつも、リーダーやったり、人の面倒みたり。今思えば、それが嫌になってたんだね。高校に入ったら、俺より頭のいい奴がたくさんいて、俺は”普通”になれた。ようやく自分のことだけ考えて生活できるようになったんだ。」
「……そんなこと、考えたこともないや……。」
高尚な悩みだ。
「それまでは、クラスメイトが”自分が面倒を見る相手”でしか、なかったんだ。で、高校にあがるでしょ。”普通”になったんだから、クラスメイトは”友達”になるはずだったんだ。でも、なぜか、そうならなかった。”仲間”はいるよ。同じ目標に向かって、情報交換をして、助け合って、励まし合える仲間。でも、ダラダラとなんでもない時間を過ごせる”友達”っていなかったんだ。」
「……俺とも……ダラダラはしてないじゃん。勉強してる。」
「ああ、ちょっと表現がふさわしくなかったね。俺にとっては、リョウスケと勉強するのは”楽しみ”なんだよ。たとえばだけど、女の子と映画見た後に、喫茶店で感想会するみたいな。」
呆気にとられた。
「勉強が、楽しみなの?」
「そう。リョウスケと進路や勉強の話をしてると、リョウスケがどんな人間で、どんな生活をしているか知れるし、ちゃんとやるから次どうたらいいか考えるのが楽しみなんだ。」
「へえぇ。俺がその境地をわかる日が来るかは怪しいけど、俺は楽しいしありがたいと思ってるから、タツオミも楽しんでるなら、良かったよ。安心した。」
「何を心配してたの?」
「俺がタツオミにしてあげれることがないなぁ…って。いつも、タツオミの言葉に励まされてるから、ハンバーガーをごちそうするだけじゃ済まないな、って思ってたんだよね……。」
「……ふぅん。そう思ってくれてるんだ。」
そう言ってタツオミは俺の横に座った。
「じゃあさ、キスしてよ。」
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