第14話 進級
高校二年生になった。
いよいよ進路もまともに考えていかなくてはならない。
最初は模試の志望校欄に、難関大学や有名私立大、地元の国公立大学を書いていたが、自分の中では地元の国公立大学が第一志望だった。
先生はまだ上の大学を目指し続けるよう言うが、モチベーションが湧かない。
俺はタツオミに相談したくなった。
タツオミにハンバーガーと引き換えに、時間をとってもらう。
今日はハルマも一緒にいる。
大学の場所が離れたら、ハルマとの関係も左右されるかもしれない。
ハルマにも、話を聞いてほしかった。
「第一志望は、地元の国公立なんだね。」
タツオミは俺の模試の成績を見ながら言った。
「うん。あまり、行きたい学科とかなくて……経済とかマーケティングなら、サラリーマンになっても役に立つかな、て。」
「将来のことを考えずに、やりたいことって言ったら、何なの?」
「そうだなぁ。英語は好きだし、海外は興味ある。でも、だからってすごく英語がペラペラなわけじゃないんだ。」
「英語ができる人が、英語を生かした仕事に就くとも限らないよ。英語ができると、やれる仕事が増えるのはたしかだけど。”好き”とか”興味がある”って気持ちそのものは、大切にした方がいいんじゃないかな。」
実家はあまり経済的に余裕はない。
だから、最初から海外に行きたいとかは言えない雰囲気だ。
でも、タツオミに言われると、最初から無きものにしていた、自分の本当の希望を尊重されたようで嬉しかった。
「ハルマは…もうやりたい仕事があるんだよね?」
なんとなく本人から聞いてはいたが、せっかくだからタツオミの意見も聞いてみたくて話を振った。
「俺は、医療工学に興味があって、工学部志望なんだ。ただ、専門的だから、大学が限られてて……。」
ハルマの家系には医療関係者が多く、昔から看護師になりたいと言っていた。
そこから、医療機器の開発技術者の夢に繋がったのだ。
タツオミは、ハルマの模試の結果を見て言った。
「ここに書いてる大学なら、全部大丈夫じゃないかな。」
そう、ハルマは大丈夫なんだ。
「もしかして、同じ大学に入りたいの?」
タツオミは俺たちの顔を見た。
先生に相談しづらい理由はそこにある。
進路を、恋人のそばにいたいから、という理由で選んでいる。
「まあ、なんていうか、絶対一緒でなくてもいいんだけど……近かったらいいな……って……。」
「じゃあ、話は簡単だよ。ハルマは、地元の中で行きたい大学を目指す。リョウスケが地元国公立を目指すならもうここ。リョウスケの成績だと、ちょっとがんばんないとね。」
「先生はランクを落とさずに……っていうんだけど、無視したらいいかな?」
「気にしなくていいんじゃない?先生はさ、進路に責任とるわけじゃないし。模試の1枠くらい適当に書いておくくらいでいいと思うよ。この国公立なら、国際も経済もあるから、学部や学科はもう少しギリギリに選んでも大丈夫。まずは楽勝で受かるくらいを目標にしよう。」
そう言って、タツオミは目標にすべき点数まで計算して教えてくれだ。
「滑り止めをあてにするようになっちゃったら、地域とか、なりふりかまってられなくなると思うんだ。お金もかかるから、親の意見もあるだろうし。」
「そうだね。成績さえとれれば解決する…よね。」
「全ての受験生がそうだけどね。ただ、まだ2年もあるのは大きいよ。」
俺は、タツオミの言葉に勇気づけられていた。
もしかしたら、学校の先生も最終的には同じ意見になるかもしれない。
でも、事情を知っているタツオミに言われると、自分の気持ちが定まる感じがした。
「ありがとう。やっぱり、相談して良かったよ。がんばろうと思えたよ。」
ハルマを見ると、なんとなくホッとしているような顔に見える。
「なんか、二人を見てると、考えさせられるよ。俺の周りは将来の夢に向かって勉強している奴ばかりだからさ。愛で進路を決めるなんて思いもつかない。でも、もしかしたら、人間の幸せは、素朴にそこにあるのかもしれないね。」
タツオミは困ったような顔で笑った。
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