第十一章・スマホが死んだ──なんでじゃコノヤロー!!! 最後の決戦に挑むの!

     ◆♀ 【裸族乙女】 ♀◆


 ベッドの足元、ロフトの真下の机上を手探りする。

「あった!」

 握り締め、一度胸に押し当て涙目で神に感謝した。作戦決行だ。なんで端から気づかなかった。初めからこの手で行けば、今頃は解決して極楽浄土を歩んでいるはずなのに。

 早速、彼に連絡した。呼び出し音が繰り返され、やっと音声が耳に響いた。安堵して彼の声に耳を傾ける。

「ただいま、出られません……」

「なんじゃコリャーッ!!」

 思わず机を殴る。

 何度も何度も連絡を取る。が、スマホからは無情な留守電の音声が絶望をもたらすのみ。メールもダメ。いかなる手段も通用せず。それでも諦めず、連絡を取り続けた。

 突如、スマホが死んだ。

 充電……じゅうでん……ジュウデン……心で唱えながら机の引き出しから充電器を出してスマホに接続。怒りに震える手でコンセントにぶっ刺した。

 ──充電は開始されない。

「なんでじゃコノヤロー!!!」

 暗闇の中、頭は混乱し、怒りの涙は流れる。直ぐに原因が判明した。「──そうか!」

 停電のせいだ。すっかり忘れていた。悲嘆に暮れ、嗚咽しながら己の愚かさに苦笑する。我が愛しの彼に救助を求めた策もあえなく徒労に終わり、最早、身も心も絶望状態だ。奈落の底、とはこんな状態をいうのであろう。

「なんで私だけが……なんのバチが当たったていうのよ!」

 悲しみが胸の奥深くから湧き出し、まなこをとめどなく濡らす。半べそで神も仏も、ついでに全ての人類を呪った。もちろん彼も。

 泣き疲れ、ふと顔を上げると、外は薄ら白み始めていた。室内の輪郭も、まだ暗いものの今ははっきりと見える。私は決心した。自分で何とかしようと。この状況を打破しなければ幸福はいつまでたっても訪れぬ、と悟ったのだ。世の中が明るくなるのを待った。完全に朝が来てから最後の決戦に挑もうと決意を固めた。



     ◇♂ 【××族 X】 ♂◇


 息を潜めていやがるぜ。軍営に戻ったまま中々姿を見せる気配もねえや。おもしろくねえ。こちとら、もっと遊びてえのに。

「ん! 何でこんなとこまで移動したんだ? なーんか気持ち悪う~!」

 知らず知らずにキッチンの隅に追いやられてるじゃねえか。

 なんだなんだ。ああ、そうか、もうこんな時間なのか。闇の幕から灰色のベールへと移ろいゆく時間帯が訪れたようだ。もうじき朝がこの身にのしかかるんだ。陽に体をはね返され、否応なく休息を余儀なくされる時が訪れたんだ。

「朝だ、朝だ、朝がやってくる!」

 忌々しい朝が。朝は絶望と同義語だ。闇を切望したとて最早、叶わぬ夢と化すのさ。

 そうだ、夢の時間だ。目前に無い物をただただ求めるのみの、やり場のねえ虚しい心を持て余すだけの、切ない運命を味わうんだよ。我が種族の宿命なのさ。

 ゆえに、完全なる朝が来るまでは、この刹那を踊り狂おう。狂喜乱舞の果ての、煌々と燃えるどす黒い石油のような闇を夢見ながら。

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