第十章・稲光に敵影が──“玉ちゃん”お願いよ~!

     ◆♀ 【裸族乙女】 ♀◆


 近くに落雷したのだ。兵器が手から滑り落ち、思わずしゃがんで耳を塞いだ。その場で震えながら、固まってしまった。

 しばらくして、恐怖におののきながら、手で闇をまさぐり、兵器を探す。兵器は難なく見つかり、すぐに戦闘態勢を整える。足の震えが止まらない。と、足の甲を何者かが、撫でながら通り過ぎて行った。

「ギャーッ!」

 闇を蹴飛ばした。が、足は空を切るばかりで的は外れっ放しだ。

 その場で駆け足をする。敵の次なる一手をかわすべく、あわよくば、踏み潰さん、と期待を込めながら。

 敵の蠢く気配がする。近い。しかも、複数存在するような気もする。“枯れ尾花”の数を恐怖が増幅させたに過ぎないのか? 

 稲光が閃いた。キッチンを照らす。一瞬、黒い影が目に映った。黒く醜い巨大な塊が、嘲笑うように前方に立ち塞がり、こちらをうかがっている。闇が訪れると、同化した敵の姿は見えない。私は身構えた。いかなる方向からの攻撃にも耐えうるように、神経を研ぎ澄ます。

 また稲光が走った。目が合った。ヤツはこちらを見据えたまま迫り来る。その距離数十センチメートル。私は恐怖を胸底深くへと強引に抑え込み、這い出さぬよう己の動きを完全に止めて息を殺した。ヤツに不意打ちを食らわしてやろうと思ったのだ。音で敵の接近を感知しつつ、兵器を天高々と振り上げた。全身に鳥肌が立ち、ブルッと震えが走る。

 今だ! 兵器を力いっぱい振り下ろした。何度も何度も敵めがけ打ちつける。攻撃の手は決して緩めはしない。その度に床が“玉ちゃん”をはね返した。力を込め、打ちつける。もう一度、またもう一度。息が弾む。我が目は次第に闇に順応し、ある程度、敵の位置を察知できるまでになっていた。だが、敵のすばしっこさは尋常ではなく、攻撃の度に逃げおおせてしまう。私の体力に限界が見え始めた。腕が思うようにいうことを聞かなくなってきた。最早これまでなのか。敵の餌食になる運命なのか。策はないのか。と、ひとつ名案が雷鳴のごとく脳天に直撃した。私は、攻撃を続行しながら寝室へとすっ飛んだ。



     ◇♂ 【××族 X】 ♂◇


「ヤミだヤミだ~い! 闇が訪れたー!」

 無意識に体が踊り出しやがったぜ。「オーア……目が回る~! イイイイイーッ……いいにおいだッぺ! ウエェ……ウエェ……」

 足のにおいを一直線に辿っちゃおっと。柔らかな皮膚に滴る茶色の液体……一瞬で啜ってやったぜい。

「さあ、敵前逃亡するヨン」

 ヤツのお傍を静々と離れます~って。

 稲光だ! ヤツの肌が一瞬白く輝いたじゃねえか。見とれて思わず身が膠着したぜ。ほほう、目も眩みそうな程眩い柔肌の温もりに抱かれてえなあ。なーんて願ってみたがよ……激しく抵抗されるだけだろうからさ……やっぱ、さっさと傍を離れるべきだな。

 オーいけねえや、案の定。攻撃してきやがったぜ。やっぱ見とれてる場合じゃなかったわいな。ピンクの“玉ちゃん”が振り下ろされて、激しく床を打ちつけてきやがる。だがよ、攻撃をかわすことはオレには容易いのさ。“玉ちゃん”は床を殴打するに留まって、この身は傷つけられることはねえや。全部不発だよーん。

「ウッシッシ……残念でした」

 あれま、段々“玉ちゃん”の動きは鈍くなるでねえのさ。どうやら疲労が溜まってきやがったな。

「おーい、どこ行くんだ~! アレアレ、またそっちの部屋へ逃亡か? やれやれ、落ち着きのねえお嬢ちゃんだこと……」

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