第八章・分析──敵は狡猾な魔物! 熟れた果実を……揉んで揉んで揉んで!
◆♀ 【裸族乙女】 ♀◆
一度目の奇襲攻撃はどうしても上手くいかなかった。
右腕が怠い。一旦、兵器を左手に持ち替え、解放してやる。右肩をグルグル回して戦闘の疲れを解し、次の攻撃に備える。息も上がって呼吸の度に喉がヒューヒューと悲鳴のように鳴る。何の戦果も上げられないまま、おめおめと逃亡を図ったこの身が嘆かわしい。これではすぐに餌食にされかねない。ひとまず休戦して体力の回復を待ち、その間に戦略を立てるしかない。激しく喘ぎながら頭を捻る。
無闇に攻撃したのでは、あの狡猾な敵には一撃すら食らわせることは無理だ。ヤツの行動を頭の中でイメージして攻撃のシミュレーションを描いてみた。しかし、どうしても最後に逃げられてしまうイメージしか湧かない。それだけ強敵だという証だ。
ヤツのさっきの行動パターンの中に弱点を見出しうるヒントが潜んでいるに違いない。だが、戦闘の素人には皆目見当もつかない。思考すればするほど、敵の強靭さに圧倒されるだけだ。
何かあるはずよ……冷静に戦闘を振り返ってみれば……何かつかめるはず。
私はベッドの真ん中に布陣してさっきの戦闘の模様を今一度、つぶさに顧みた。すると、これまで気づかなかった幾つかの点が見え始めた。
御不浄から出て、目が合った時、敵の動きが一瞬止まった。こちらが攻撃に踏み切って一歩動いた瞬間、はじめて逃走を開始したように見えた。
停電から回復して希望の光に満たされながら襖を開け、キッチンに飛び出した瞬間もヤツはその場にじっとしていた。最初の奇襲攻撃を仕かけるべく、こちらが鉄アレーを振りかざすと同時に行動した。
こちらの動きを見極めていたのか? ヤツが頻繁に動き回り始めたのはいつだ? ゴソゴソをはじめて耳が捉えたのは……目が覚めて、雷が鳴り……停電! そうよ、停電のあとだわ! 激しい物音が聞こえた。ヤツはキッチンの中を貪り尽くしていた。闇の中で大胆に行動していた。闇の中。暗闇の中でこそ本領発揮……みたいな。電灯の下では、恐らく警戒してか、こちらの動きを見極めてから行動を起こすのかもしれない。そうだとしたら、何という用心深さだろうか。だとしたら……意外と臆病!? 私はそんな風に敵の本性を決めつけたかった。無論、己の恐れからに相違ないのだが。それとも、闇を隠れ蓑にして行動するのなら……卑怯者!
以上の観察眼からヤツの行動パターンを自分なりに推測してみる。
一、光の下では、こちらの動きを見極めて行動する。
二、暗闇の中では、大胆に。
三、用心深い、臆病者あるいは卑怯者。
要するに、『狡猾な魔物』というわけだ。
どこから湧き出たか知らぬが、あの風体はこの世のものとは到底思えぬ。思い出す度に悪寒が走ってしようがないのだ。そんな魔物を相手に戦わねばならぬ。こんな災厄がどうして我が身に降りかかってしまったのか、神も仏も呪いたい心境だが、それは詮なきことだと諦めて果敢に挑まねばならぬだろう。
私は大きく深呼吸を繰り返し、勝利のみを思い描いた。次の攻撃に備え、今一度、兵器を構えながら作戦を練り続ける。
俯くと、裸体は熱で紅潮し、呼吸の度に熟れた二つの果実が胸元で今にも弾け跳びそうだ。私は無意識に熟れた果実を左手で揉み解しながら己を鼓舞していた。
◇♂ 【××族 X】 ♂◇
何だ? 出て来いヤー! もう終わりか? 休戦か? あっさりしてやがる。諦めがいいというか……。まあ、こちとらは興奮するわな。生きてるうって実感が湧くぜ、まったく。
だがよ、戦なんざ考えてるわけじゃねえよ。オレたちは常に平和主義なんだからさあ。向こうが躍起になって攻撃を仕掛けてくるもんで仕方なく戦う羽目になるだけさ。こちとら、本当は共生を模索してるんだけどなあ。どうもヤツらとはそりが合わねえんだな。悲しくなっちまうぜ。ま、現実を直視するしかねえ。
殺るか殺られるかなら……当然、抵抗するしかねえ。
「そうだろう? それが世の掟ってもんよな」
しかし、敵は休戦したみてえだな。恐らく、英気を養ってる最中だろうて。次の戦闘に備えているに違げえねえ。
襖の向こうをうかがってみるか……残留思念を捉えてやろうじゃねえの。
「恐怖?」
どうやら、恐怖におののいてやがる。そんなにオレ様が怖いってか。これ程の優男なのに……ちと悲しくなるぜ、まったく。
しばらくは、おとなしくしているだろうて。その隙に、こちらはひと仕事済ませればよかんべな。腹が減っては戦はままならねえもんな。
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