第2話

 移動しながら、人類がどうなったのかも確認する。

 しかし、未だ一人も出会えていない。


「ネットワークが使えないから確認しようがない。もしくは、地下へ移動したの?」


 探知機能をできる限り深くまで広げたものの、生命反応は小さな生き物のみ。いっそ、掘り起こしてもいいだろう。

 けれどそれは、エデンへ向かった後でもいい。

 どうにも、ジャッジメントがいないことが落ち着かない。これが人間の言う、『寂しい』というものなのかもしれない。


 本来なら、人類優先。

 でも、私自身の変化の理由を知らなければならない。

 このまま一人格で過ごしたい場合、私もジャッジメントも、偏りが出る。


 二人格だからこそ、出来たことがある。

 それにジャッジメントだけになった場合、裁きを優先して幸せを疎かにする場合もある。

 それだけは、あってはならない。


「急ごう……、あれは?」


 大木かと思っていたものは、モニュメントのようだ。天を目指すそれには、文字が彫られている。


『神よ、救いたまえ』

『間違いに気付くのが遅かった』

『今ならまだ、やり直せます。見捨てないで』

『生まれてきたことに感謝を。奪われることに呪いを』

『いつまでも、家族の皆を愛している』

『ハピネス、たすけて』


 綴られる文字から、圧力、手の振動等を読み取り、その当時の感情を分析する。


 絶望。怒り。悲しみ。

 そして、慈愛と希望。

 わずかに、けれども強く残る幸福。


 特に希望が込められているのは、子供のものと思われる文字。私の名前にそれが表れている。


「救えなかった」


 もしかしたら、生き抜いたかもしれない。

 しかし、かなりの時間が経過していることが、文字からわかる。


「消された記憶分の時間、私は機能していたの? もし機能していなければ、人類の幸せは保たれていたの?」


 眠らされていたことから、役目を果たせていないことを予測してしまう。

 けれど、最期を悟った人類の心の強さも同時に感知し、全ての文字から伝わる感情を私の中に記録し続けた。

 それだけが、今の私が出来ることだから。

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