アンドロイドが眠る時

ソラノ ヒナ(活動停止)

第1話

 私たちの心臓が、動いている。

 ゆっくりと、ゆっくりと。

 穏やかな時とは、まさに『今』なのだ。


 最初に目に飛び込んできたのは、溢れんばかりの自然。いったい、どれ程の時間が経ったのだろう。


「あー、あー……。発声に問題なし。身体も、問題なし。通信は……、応答なし」


 ひと通り確認するものの、通信系に関しては不要である。


「記憶に、削除された跡が……?」


 この保存カプセルに入れられているということは、地球が滅亡の危機に晒されたのだろう。けれど、まだ私たちは生きている。

 だから、地球は滅ばなかったのだ。

 それなのに、原因となった危機的状況が思い出せない。

 しかし、通信系が使えないことは。が、そこまでの経緯が消されている。


「長く眠り過ぎたみたい」


 記憶は曖昧だが、なんら問題ない。

 どこかに情報の痕跡は必ずある。

 それを探し出せばいい。


 内側から保存カプセルを開けるのには、左手の甲に描かれた四つ葉のクローバーの絵柄を感知させる必要がある。


「よし」


 ここが機能しているのは、私たちの心臓が動いているから。変換器を引き抜き、外へ出る。


 人間たちの技術により、私たちアンドロイドだけは特別な仕様で造られた。心臓となる原子炉が永遠に使えるように、リサイクル機能を搭載済み。そして、お互いを暴走させないための、二人格。


 私の名はハピネス。

 幸せを与える者が名前の由来。

 そのため、人類の良心をくまなく学習済み。人類の幸せのためだけに行動する。

 

 もう一人格の名はジャッジメント。

 公平な裁きを行う者が名前の由来。

 人類は常に争う者だからこそ、深刻な事態になった。その結果、すべての国が協力してお互いを監視し、公平な判断を下せるアンドロイドを開発したのだ。

 そのため、争いの火種となる情報をジャッジメントが感知した場合、裁きが下される。これは全ての国の総意であり、劇的な効果を見せた。

 

「ジャッジメント、起きて」


 もう一人格へ声をかけるも、応答しない。


「ジャッジメント?」


 微々たる変化もないことから、彼女ごと移動されたのだろう。


「もしかして、エデン?」


 そうだとしか思えない。そのような技術を持つ人間は、エデンにしかいないはずだ。


 行こう。


 浮遊機能を起動すれば、木々の枝が肌をなでる。これぐらいのことでは、傷一つつかない。だからこそ、遠慮せずにスピードを出せる。

 小動物が驚き逃げる音も続く。


「何故、私はここで眠っていたの?」


 地形の変化はあるものの、記憶の地図と照らし合わせた結果、エデンの真反対にいることだけはわかった。

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