6
自分を変えるには自分から動くしかない。そんなことはわかってはいるが、体が動かないのだからしょうがない。でも、自分なりに少しずつ進んでいければとは思う。先日、彼女が家きてそう思った。
でも何故、彼女はまったく知らないはずの自分を好きだと言えるんだろう。私たちは会話すらしたことないはずなのに。接点だってない。――根本的に人間的魅力がないというのに。
考えれば考えるほど負のドツボにはまっていくような、そんな気さえしてきた。
変に考えるのはやめよう。
私は水をごくりと飲むと、ふぅと一息をつく。落ち着いて、いこう。
なんとか心を落ち着け、学校へいく準備をする。今日はテストの返却がある。遅刻はできない。
今日は友人のおかげで、時間に余裕がある。自転車にのって、ゆっくりめに学校へと向かった。
***
「おはよー、ヒロ!」
「おはよう、ほまちゃん。今日もありがとう」
「どういたしまして。あたしは今日も朝からヒロの顔見れて嬉しいよ!」
「あははは」
相変わらず返答に困るようなことを言ってのけるなあ。
他愛ない会話を交わし、朝の時間は終わる。本番はここから、テストが返却される。勉強は友人のおかげでばっちりだとは思うけど、それでも結果を見るまでは安心できない。
――そんな心配も杞憂に終わる。無事、五教科合わせて9割以上の得点。これは合格圏内の点数だろう。
そんなこんなでその日の放課後。
「ヒロー! ようやく終わったって感じだね」
「最初の難関だったね。ほまちゃんのおかげで乗り切れたよ、ありがとう」
「えへへー、お礼してくれてもいいんだよ?」
うーん、抜け目ないな。でもお礼しようとはちゃんと思っていたから、問題はない。
私はカバンからお礼の品を取り出す。
「これ、お礼」
「え?!お礼は冗談だよ?!」
「元々用意してきたものだから。遠慮しないで受け取って?」
私はそういって小さな紙袋を渡す。
「ね、ね、あけていい?」
「うん」
友人は丁寧に紙袋のテープをはがし、中を確認し、取り出す。中には長方形の箱に特徴のあるデザインがかかれている。これだけじゃわからないと思うが、とある有名店の入浴剤だ。お湯に溶かすと宇宙が広がる、とか虹がかかる、といったうたい文句で有名なもの。
友人はわぁ、と顔を輝かせると大事そうにそれをしまった。
「ありがとう! 嬉しい」
「弟くんや妹ちゃんたちと楽しんでね」
それじゃ、と退散しようとしたが待ってと手を掴まれる。
まさか一緒に入ろうとか言わないよね、さすがに。
「今日も高瀬さんと約束あるんでしょ」
「う、うん」
「じゃあこれ、今週のノート。テストの復習のこともかいてるから」
「……ありがとう」
「これ、本当にありがとうね。今夜使うね」
差し出されたノートを受け取る。友人は紙袋を顔の横にかかげるとはにかむように笑った。
ノートだけ受け取っておいて、後はまるで避けるような態度をとるなんて。今までのことを考えるとさっきの入浴剤だけで良いなんて思ってはいないけど。さすがのこの私でも。
「週末の休みさ、どこかいかない?」
「え?」
「嫌なら――」
「嫌じゃない! 全然! 行く! 北極でも!」
北極は大陸じゃないぞ、なんて学年一位に指摘できるわけでもなく。
本当に食われるんじゃないかってくらいの食い気味で言われる。もしかしたら、中学生の時に陸上と全国模試で一位を取ったときより興奮しているんじゃないか?
「じゃあほら、高瀬さん待たせてるんでしょ! 行った行った!」
かなりご機嫌な様子の友人に背中を押される。またね、と挨拶をして教室を出ると案の定彼女が待っていた。彼女がここで待っているのはもはや慣れたもんなのか、平然としている。最初のころは少しざわついていて、彼女も落ち着かなかったころが懐かしい。
教室出て少し歩くと、やったー!と友人の叫び声らしき声が聞こえた。きっと確認テストで一位をとったからなんだろう。うん、きっとそうだ。
「嵐山さんと何かあったの?」
「今週末一緒に遊ぼーって話してた」
「……テストが終わったら私と週末会う約束、忘れてないわよね?」
「え? ……あ」
あ。
「なによ、それ……本当に忘れてたの?」
露骨に不機嫌になっていく彼女。それはそうだ。完全に忘れてたし、自分が悪い。
どうしたもんか、と悩んでいると簡単な解決策を思いつく。
「三人で遊ぼうか。ほまちゃんにもいっとくねー」
「え?!」
「うんうん、高瀬さんもほまちゃんも仲良くなればいいんだよ」
そうだよ、そうしたら無駄な軋轢もなくなるし二人が仲良くなれば色々とやりやすくもなるだろう。下校の時とか勉強の時とか。
そんな気楽な考えの元、三人で遊んでも大丈夫だろうと思った。二人とも、私と仲良くできてるんだから仲良くできるだろう。
「わ、私は嫌よ」
「なんで?」
「だって、ようやく梛木さんと二人でどこかへ出かけられるって楽しみにしてたんだから!」
これは譲れない、といった感じで私を睨みつける。
彼女も抑えたようだが、放課後の喧騒にその声はまぎれることなく、どよどよと周囲が私たちを注目していた。
また私はやってしまった。すぐ私はやらかしてしまう。すぐ人を怒らせてしまう。
「ごめんなさい」
「私は別に怒ってるわけじゃ……いや、怒ってるけど! その……と、とりあえず行きましょ!」
彼女は私を引きずるように学校を出る。
「その……さっきの話だけど」
「うん、私、高瀬さんの気持ち何も考えてなかった。本当にごめんなさい」
「……それはもういいわ。そのかわり、一つ私の願いを聞いてちょうだい」
「私にできることなら」
「ヒロムって呼ばせてほしいの。あと、私のことも高瀬さんじゃなくて秋って呼んで。来週は私とちゃんとデ……出かけて!」
三つじゃん。
「それだと三つだよ」
「いいじゃない! じゃあ三つにして」
こちらに非がある以上、彼女の要求をのまなければなるまい。無茶な願いは言わないところに彼女の優しさを感じた。
「そ、そんな可愛く笑っても次同じことしたら許さないんだからね!」
いつの時代のツンデレだ、というようなセリフをいいながらも笑っている彼女。私はどうやら知らないうちに笑っていたらしい。
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