第3話 水槽の中の金魚理論:我々にできることは環境を整えること

僕は、のんびりYouTuBeをみていた。「山田玲司のヤングサンデー」。利用者さんに教えてもらった番組だ。メンタルヘルスについて山田さんが語っている。


「金魚が病気になった時に、金魚だけ見ていてもダメなんですよ。金魚が病気になるのって環境で、水が汚れているとか。その水が汚れている原因は何か。それを取り除かないと、その金魚を治療しても、その水槽に戻せば、また病気になるし、汚れた水の中にいれば、他の金魚だって病気になる。だから、水槽の中、環境を変えないと」


それを聞いて、僕は、「そう!それそれ!」と膝を叩いた。

僕たちB型作業所が、利用者さんに提供できるサービスは、利用者さんが過ごしやすい環境を整えることだ。たまに勘違いしている人がいるが、うちは更生施設じゃない。利用者さんに、「正しい生き方」や「普通」、「常識」を押し付けたて、あれこれ指図するのがスタッフの仕事じゃない。古い福祉の考えの人の中には、利用者さんを障がい者として、自分より未熟な人間と見る傾向がある。でも、僕は、利用者さんは、僕がしたことのない体験をたくさんしてきた人、僕より、ずっと社会経験が豊富な人だと思って接している。

こんな僕が、社会経験が立派な方に対して、あれこれ指図するなんてとんでもない。僕にできるのは、最初の山田玲司さんの言葉にあるように、水槽の中を居心地よく保つことである。


僕は、朝9時に作業所に来て、夕方6時までいて、利用者さんと同じ空間で、利用者さんと同じように、PCに向かって仕事をする。ランチも利用者さんと一緒のものを食べる。自分が心地いいと思う空間を作っている。冷暖房はケチらない。季節にあった穏やかなカフェミュージック。飲み物は飲み放題でお菓子が食べ放題。コーヒーは、挽き立ての豆から落としているから結構美味しい。

僕がスタッフにいうのは、「明るく元気な態度でいるよう!」それくらいで、みんな細かい指示なんかしなくても、ちゃんとやってくれる。


ここは、僕が作り上げた理想の水槽だ。

そこで、僕と、スタッフ、利用者さん、みんなで毎日楽しく生きている。

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