第50話 競技大会開催

 銀の間とはいわゆる会議室のような部屋だった。

 中央に長テーブルがあり、短い辺に計二脚、長い辺には計十脚の椅子が並んでいる。城の家具とはいっても簡素なものだ。壁にも絵画などの装飾はない。

 なにが銀なのかと思ったが、金のような派手さはない、という意味かもしれない。

 だが話をするにはここで十分だ。


 一番奥に女王が座り、女王から見て右側にはエルフ二人と俺、左側には一席あけてエートゥ、さらに一席あけてドナナートが座った。この世界にも上座という概念があるらしく、俺は興味深く見ていた。

 日もすっかり沈んでしまった時間だったのでテーブルの上には燭台が灯された。

 オレンジ色の揺らめく光が各々の顔を照らしている。


「ふう。さすがに今日は疲れました」


 場を和ます意図があるのだろうか。女王の一言目は気さくなものだった。


「見事な祝賀会でした。このエートゥ、あまり華やかな会合は好みませんが、たまには悪くないですなぁ」

「ドナナートめも楽しめました。特に各国からの自慢の料理が良かったですね。いろいろな味が楽しめました」


 確かに料理は多種多様だった。これはどこのどういう料理、という説明があればなお良かったなぁ。


「改めまして、この度は我らエルフもお呼びいただき、ありがとうございました。女王様の我らに対する厚遇には感謝してもしきれませぬ」


 マルクックが軽く頭をさげ、アキレトもそれに合わせた。

 お、これは俺のターンか?

 固いのは苦手なのでとっとと本題に入ってもらおう。


「皆の言う通り、素晴らしい会だった。さて、俺たちが呼ばれた理由をお話いただこうか?」


 女王はゆっくりうなずき、全員の顔を一度見回してから口を開いた。


「話とはもちろん、この国の行く末のことです。これを御覧ください」


 女王が丸められた大きな布をテーブルに広げた。

 例のシズナシ大陸の地図だ。


「これまで各地はもともとの領主が治めていましたが、今後はこのように大きく分割し、その地区をそれぞれ皆さんに治めていただこうと思っています」


 女王は指で地図をなぞる。亀の頭から鼻先辺りの地域を示した。


「この北領の大領主がエートゥ殿」


 次に下顎全体をなぞる。


「この南領の大領主がドナナート殿」


 上顎の下半分から顎の接合部あたりを示す。


「ここを中央として王家が取り仕切ります」


 最後に首を丸く囲った。


「ここ西領はサトゥーレント殿にお任せしたいと思っています」


 まずエートゥが落ち着いた、しかし怒りがこもった声で言う。


「それが女王の決定であれば、従うのみですが、しかし人間で無いものに任せて本当にいいのでしょうか?」

「。人間でないと言ってもサトゥーレント様は人間より優れたお方です。むしろ当然と考えますが」


 ドナナートは変化がないように見えるが、やはりどこか不満があるのだろう。祝賀会のときより声が低い。


「女王様にとっては命の恩人と思われておられるのかもしれませんが、我らにとっては不気味な存在なのです。民も納得しませんよ」

「民は私が納得させましょう。人々はエルフとサトゥーレント様について知らなすぎるのです。まずは相手をよく知ること、それが平和への第一歩だと考えます」

「しかし、これだけのことでは広く知られるとまではいきませんよ」ドナナートは侮蔑するような笑みを浮かべている。

「ドナナートの言うことももっともです。そこで私はあることを思いつきました」


「各領地が競い合う競技大会を開催します」


 一同は何を言っているか理解できず、ポカンと口を開けている。ただし俺を除く。


「なるほど、それはいいアイデアだ」

「そうでしょう!?」


 女王はキラキラと目を輝かせながら俺を見て、勢いよく立ち上がった。


「すまぬが、どういうことか説明していただきたい」眉をひそめ困惑している様子のエートゥが言う。

「各領地から代表が出場し、己の技能を争う大会を開くのですよ」

「それにどういう意味があるので?」ドナナートも懐疑的な顔だ。

「一つは民の娯楽として。一つは共に競い合うことで領地ごとの理解を深め合うこと。一つは代表を目指すことによる民の能力向上。主にこんなところです」


 女王は言わなかったが、これはいわばガス抜きの意味もある。

 大陸が統一され、大きな戦争がなくなった今、力を持て余している者は多いだろう。特に軍人だ。優秀な者たちがその力を持て余すと、それが火種になりかねない。いい感じで発揮できる場が必要なのだ。


「競うと言っても、どんなことで競うのです?」マルクックが問う。

「例えばですが、エルフが得意なのは弓ですよね? ならば、弓を使った競技はどうでしょう?」

「お待ちを、それではエルフが有利ではありませんか?」とエートゥ。

「もちろん、各領地得意な競技を考えます。北の民は筋力が優れておりますので、どれだけ重いものを持ち上げられるか? という競技などどうでしょう?」

「それは結構ですが、しかしこれにいかほどの効果があるのか、儂にはまだ計りかねますな」

「ほほう? エートゥ殿はあまり自信が無いようだな。やはり大衆の面前で優劣を付けれられるわけだから警戒するのも無理からぬ話だが」


 俺はあえて焚き付けてやった。この二人は血の気が多そうだからだ。

 案の定、エートゥは目を血走らせて俺を睨みつけた。


「森の主殿はずいぶんと自信がおありようのだな? いいだろう。我が領民の優秀さを知らしめるいい機会だ。ドナナートはどうだ?」

「いいじゃないか。久々にたぎってきたぞ」

「よし。では各領主には各々が考えた競技の案を出してもらおうじゃないか。それらをまとめて不公平にならぬよう、どれを採用するかまた集まって決めよう」


 俺の提案に反対意見は無かった。


「では女王。この競技大会に名前を付けてもらおう」

「名前は決まっております。大王アレステティキファの名を冠し、アレステ競技大会といたします」


 こうして第一回アレステ競技大会の開催が内々で決定したのだった。

 そしてこの成功如何に女王の命運が託されたあのである。

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学芸会でずっと木の役をやらされるほど地味な俺が異世界でガチで木になった話 蓮澤ナーム @hasuzawa

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