第39話 中継局

 木像は大王の功績を称える、という名目で王城内設置したものだ。樹齢四百年超えの大樹を使用した全高約4メートルの像である。

 見た目は大王を完璧に再現している。なんせ俺は一度“同化”した者であれば、その形を簡単に再現できるのだ。

 銅像や石像のように劣化しやすい木を使ったのは理由がある。

 この像は俺が“顕現”できるようにするためのものなのだ。だから中継局、というわけである。


「植林も進んでいるのか?」

「それはお任せください。今や私も大使としてそれなりに人を使えるんですよ」


 これは女王の発案から俺が考え出した計画である。

 女王からの要請により、俺は補佐という役目を授かっている。問題はどうやって王都に行くかということだ。


「森から木を繋げばよろしいのでは?」


 この女王の発言でひらめいた。そう、俺は木であって、木は植林が可能だ。

 今までは自分の力で森を広げてきたが、人の力を借りれば計画的に森を広げることができるのでは? というアイデアから実際に実行に移したのがこの中継局の計画である。


 まず必要なのは大きな木。樹齢四百年もあれば十分だ。そして電線のように、そこまでを繋ぐ木々。森から王城までを植林で繋いでいったのだ。どちらかというと、これに時間がかかった。


「どうです? 今現在、サトゥーレント様の感覚はありますか?」

「うーん。確かに王都へ続く道に沿って伸びている感覚はあるんだが、王都までは入っていないようだぞ」


 エルフの里くらいまでならともかく、俺もここまでの長い距離を繋ぐのは初めてのことだ。うまくいくという保証はなかった。

 やってみると、やはり感覚に距離的な限界はあるようで、遠くに行くほどにそれは弱くなっていく。それはまだ王都へ行く道の途中で途切れてしまっているのだ。


「実は途中に宿場町があるんですが、ここで植林が難航していたんですよ。住民から植林を反対されてまして。女王以外にこの計画の真の目的を知る者もいませんし、説得には少し苦労したようです」

「なんだ。そうだったのか」


 そういうのって、この時代にもあるんだなぁ。一軒、立ち退かないために道路が通らないとか、前世ではあった話だけれども。

 人間側でこの計画の真の意味を知るのは女王と大使だけ。何の意味があって植林をするのかという反対意見は貴族たちからも上がっていたらしい。そりゃま、そうかもしれんな。

 正直に理由を言うわけにもいかんしなぁ。人間からすりゃ、俺なんてエルフのスパイみたいなもんだろうし。


 女王にもそのことを言ったんだが、俺は信用されているらしい。

 あのとき、こんな会話があった。


 ※


「サトゥーレント様はエルフに肩入れするお方ではないでしょう?」

「そうだけど、なんでそう思う?」

「サトゥーレント様は私をお助けしてくださったとき、我らを助けるだけで無駄な殺生はなさいませんでした。それで理解したのです。サトゥーレント様はすべての生命に対して平等なお方なのだと」

「それは私からも保証いたしましょう」マルクックが言った。

「森の中で我らエルフが獣に襲われたとしましょう。森の中でのことであれば、サトゥーレント様はすべてをご覧になっております。ですが、このようなときでもサトゥーレント様は我らをお救いくださるわけではありません。それは、獣も我ら同様に生きるためにやっているからです。サトゥーレント様とはそのようなお方なのです」


 女王はそれを聞き、微笑んでうなずいた。


「やはり。私の目に狂いはなかったようです。これでも人を見る目はあるんですよ?」


 そして口元を袖で隠し、いたずらっぽく笑った。

 大王とまったく同じことを言っているのだが、知っているんだろうか?


 ※


「とはいえ、女王が直接指揮する計画ですから、反対するにも限界があったのでしょう。ようやくそこが繋がるようです。王都側からの植林もほぼ終わっていますから、あとはそこが繋がれば……」

「王都に出られるかも、ってわけだな」


 さてさて、これがうまくいくかどうか。


 もう一つの懸念は中継局として使う大樹である。

 これを加工しても機能するのか、ということは実際に検証し、問題がないと判明している。あとは時間とともに弱まってしまう可能性だが、これは新たな像を作ればいいことだろう。幸いにもまったく同じものを作ることは可能なのだ。

 最後に気になるのは、植林がどこまで伸ばせるのかということだ。


「あ、今、繋がったぞ」

「え? 本当ですか?」

「うん。感覚があった」


 俺の感覚が一気に伸びた。今まさに、植林計画が終わったのだろう。


「では、早速、お試しになってみますか?」

「やってみよう。まずは辺りを偵察してみるかな」


 いきなり“顕現”したら驚かせてしまうかもしれない。

 意識を集中すると、像の側に人間がいるらしいと分かった。その人間に“感覚共有”してみる。

 彼の目線から見るに、そこは王城内のようだった。視界に像はなく、じっとそこに佇んでいる。見張りか何かではないだろうか?


「周りにはそれほど人がいないみたいだ。ちょっと出てみよう」


 ここまではっきりと見えるなら、おそらく“顕現”することも可能だ。

 さて、いっちょやってみるか。初の王都へ。ちょっと緊張するなぁ。

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