第7話 エルフと精霊
千年が経過すると、俺はかなりの広さに成長していた。
正確には測りようがないが、一つの村がすっぽり入るくらいはあるだろうか。
俺や、俺ではな普通の木々は人の手が入っていないので枝打ちもされていない。
日差しは葉で防がれ、根本は昼でも薄暗い。地面にはそんな弱い日差しでも育つような草が茂っていて、大きな岩がゴロゴロ転がっている。
原生林ってやつだ。人が住めるような環境ではない。
だが、そんな森と共存する知的生命体が現れたのだ。
それがエルフだ。
最初に現れたのは俺の外側にある森の中だ。その姿は動物たちの目で捉えられた。
彼らは木の上に住居を作り、木の実を取ったり、卓越した弓の技術で小動物を狩って生きているようだ。
見つかれば危険なため、動物はむやみに彼らに近寄ることは無かった。
だが、そのような存在がいる、ということが分かっただけで、俺はなんだか嬉しかった。
原始的な生活をしているとはいえ、知的生命だ。
コミュニケーションがとれるかもしれない。
そんな希望が生まれた。
前世では積極的に人と関わろうとはしなかった俺だが、木になってすでに千年以上。
さすがに人恋しくなってしまっていたのだろう。
だがさらに数百年は、彼らの生活を遠巻きに見守るだけだった。
動くことも、話すこともできないのだからしょうがない。
だが、彼らと話してみたい。
そんな俺の胸の奥底で生まれた小さな欲求が、なんらかの影響を与えたのかもしれない。
それは、俺もかつて見たこともない存在だった。肉体を持たない、ただの意思のようなものだ。
動物たちの目には映らないらしい。肉体が無いため生命活動もない。
彼らがいつからいたのか、それは分からない。実はずっといたのかもしれない。ある日、その存在に気がついたのだ。
俺が木だからこそ、彼らに気がついたのかもしれない。
最初は前に俺にコンタクトしてきた、例の神かと思った。
だが、あれほど何か超越したような存在感は感じられなかった。
ただフワフワと、あたり一帯に存在しているだけなのだ。
そう、それは、一つではない。
そこいらに無数に存在している。
(おーい、聞こえるか?)
ためしに、その存在に呼びかけてみた。
反応はあった。無色透明だったそれに、黄色い色がついた。
(俺は木だ。君たちは何だ?)
それらが、それぞれに黄や赤の色をつけ、反応している。
森がイルミネーションで彩られたクリスマスの街のようになった。
彼らを、俺は精霊と呼ぶことにした。
俺はなんとか、意思疎通をしようと接触し続けた。
やがて、色によって肯定、否定の意思を伝えられるようになった。
そこからはあっという間だ。
数年で、彼らは言葉を覚えてしまったのだ。
彼らと話していてわかったのは、精霊には肉体はないこと。
寿命は極めて長いか、不死かもしれないこと。
性別はなく、どのように生まれたかは精霊たちも知らないこと。
最初は彼らの区別がつかなかった。
性格、考え方に違いがあると分かってから、精霊たちに名前をつけていくことにした。
中でも特に、俺との接触をしてくる個体がいた。俺はその精霊にエステルと名付けた。好きな漫画のキャラからだ。
(あなたの名前はなんというの?)
エステルからそう問われ、俺はハッとした。
自分の名前はなんだったっけ? と、一瞬、考えてしまった。
前世の記憶はあるのだが、ここにきてからこっち、名乗ることがなかったからだ。
(佐藤蓮斗だ)
(サトゥー…レント? 分かった。これからはそう呼ぶね)
やや間違って伝わったようだったが、俺はそんな些細なことは気にしなかった。
なんなら、ちょっとかっこいいかも、と思って気に入ってしまった。それから俺はサトゥーレントと呼ばれることになった。
精霊とは、“感覚共有”はできないようだ。
ただ、動物たちと違い、俺の意思を理解できる。
そこで俺は、ちょっとお願いしてみることにした。
エルフたちとの接触である。
(俺は木だから動くことはできないんだ。エステルなら彼らに近づけないか?)
(やってみるよ)
数日後、戻ってきたエステルは怒っているようだった。
(あいつら嫌いだよ。捕まえようとしてくるんだもん)
俺のときと同様、まずは光の色による接触を試みたようだが、エルフからすれば、それは珍しい生き物に見えたのだろう。
(エルフは鳴き声でやりとりしてるみたい。動物と一緒だね)
やはり、エルフは知的生命体だ。独自の言語を作り出し、それにより仲間同士でコミュニケーションしているようだ。
ということは、俺もどうにかして喋れるようにすれば、彼らとやりとりできるはずだ。
だが木である俺には声帯などもちろんない。
さて、どうしたもんか。
(エステルは鳴くことはできるの?)
(できないよ。する必要もないし)
そりゃそうだだ。俺たちのやっている会話は、いわば念話みたいなもんだ。
個別の会話もできるし、広範囲に一気に呼びかけることもできる。
それはかなり離れていても可能だ。
電話と放送を兼ね備えているようなものだ。
声を出すより遥かに便利なのだから、話す必要などないのである。
しかし、そうしたい、そうありたい、そういう欲求というものは変化をもたらすらしい。
ある日、転機が訪れた。
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