第69話 今日は何もない1日でした
騎士科と聖女科の騎士組の模擬戦が終わり、フレムンド学院で職員会議が行われた。
長テーブルを囲んでいる1人、美少女のようなアマスティアが説明している。
「以上のように、ジンは被害者であり、彼を参加しないように陰謀を巡らせた騎士科のグザール隊を罰するべきです」
上座にいる、怪しい研究をしていそうな男が、頷いた。
意外にも、20代後半に見える若々しさ。
低いイケボで、喋り出す。
「分かりました……。女子エリアに飛ばしたうえ、初代聖女の装備を使うしかない状況へ追い込んだ彼らには、何らかの処罰を加えましょう。ジン君は被害者ですが、女子エリアへの侵入を不問に処すことで相殺。それから、アマスティア先生は減給10%を3ヶ月です」
「なぜ!?」
抗議したアマスティアに、学長が説明する。
「生徒をずっと監視しているのは、問題ですよ? 以後は、光の精霊を張りつかせることを自重するように……。では、騎士科の先生! グザール隊への処罰をお願いします」
気まずい表情のドニ・カラベッタが、発言する。
「騎士科として処罰したいのは山々ですが、奴らの大半はヤンスエナ帝国からの留学ゆえ放り出すのは難しく、停学にしても自棄になるだけ……。罰金を科して、縛るぐらい。まあ、形だけですが」
「まったく、度し難いですね……。この私が、真の力を封じられていなければ! くうっ! 右腕が!?」
いきなり中二病になった学長は、座ったままで右腕をおさえる学長。
(((いい年して何してんだ、若づくりのオッサン?)))
長テーブルについた面々が、呆れたように見守る。
気が済んだ学長は、何事もなかったように涼し気なクールフェイスに。
「ぶっちゃけ、またやらかしそうですか?」
「瞬殺されたリーダー格のアドリエン・カザルティが、ジンを気に入ったようで……。股間を勃起させながら、『再戦が楽しみだ♪』と嬉しそうです。ひとまず、大人しくすると思います。というか、思いたい」
「カラベッタ先生? 勃起のくだり、必要でしたか?」
若い女の誰かが突っ込んだが、ドニは真顔だ。
「あいつは、気に入った相手を壊すまでしつこい! だが、相手に気を遣う奴だ……。ジンが上手くかわせば、時間稼ぎになるでしょう」
頷いた学長は、まったく動揺せずに宣言する。
「なるほど……。では、ジン君が上手く接することを期待しましょう」
若い女は、また突っ込む。
「臨機応変という名の放置ですね、分かります」
◇
ギリギリで模擬戦を乗り切った俺は、聖女の装備一式が光となって飛んでいく光景を見守る。
(ありがとう……。この恩は、いずれ返す!)
心なしか、ピンクの長髪で童顔の、癒しながら自身も白兵戦をしそうな女の顔が浮かんだ。
えへへ! と言わんばかりの笑顔だ。
(んー?)
気にするのを止めて、何とも言えない目つきで見ている友人たちに、言い訳を考える。
――数日後
剣術の授業で、仲間内だけの稽古。
意外にも、グザール隊は絡んでこない。
(念のため、俺たち男子も参加するようにしたが……。杞憂だったか)
息を吐いた俺は、事情を説明したのに1人だけ許してくれない女を見た。
ルイーゼロッテ・フォン・ホルムである。
レイピアを構えたまま、怒りマークをつけたままの笑顔。
「私は、まだ許していないからねっ!」
刃を潰した剣を持った俺は、その切っ先をそらし――
なぜか躓いたルイーゼロッテを正面から抱き留めたら、唇同士でぶつかった。
周りの動きが止まった気配。
視線が集まった中で、俺は淡々と言う。
「気にするな、事故だ」
自分の足で立ったルイーゼロッテは、顔を上げた。
「そ、そうよね! 事故ね! ……フーッ。フーッ」
何か、真顔ですげー怒っていらっしゃるのですが?
後ずさりで距離をとりつつ、再びレイピアの間合いに。
ヒュッと切っ先を俺に向けながら、同じく真顔のルイーゼロッテが告げる。
「ちゃんと構えて? 怪我をしないように、気をつけて……ねっ!」
先ほどとは比べ物にならない踏み込みで、しなる切っ先が襲ってきた。
それを捌きつつ、俺は感動する。
(思っていたより、強いな……)
まるで、本当に殺しそうな気迫と技だ。
素晴らしい!
――夜の男子寮
疲れたので、本日は早くに寝る。
窓によって、カーテンを開け――
2階なのに、アマスティアが浮かんでいた。
笑顔で片手を振るから、会釈したあとにカーテンをシャッと閉める。
「寝るか……」
黒い大剣と化した古龍カーヌスが、頭の中で話しかけてくる。
『い、いいのか!? あの女は、用事があるのでは?』
正直、眠い……。
ベッドに横たわり、スヤスヤと寝る。
ふと目を覚ましたら、アマスティアが上から覗き込んでいた。
気にせず、横になって目を閉じる。
(小人族の
懐かしくなった。
彼女たちは、あの家でちゃんと暮らしているだろうか?
『もう少し、危機感を覚えたほうがいいぞ?』
カーヌスの突っ込みを受け流しつつ、再び夢の中へ。
今日は何もない、平和な1日でした。
『お前の頭の中では、そうなのだろうな?』
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