第70話 恋愛脳と世界の謎
ジンを巡るドタバタが続く中、若い男女が観劇を見ていた。
ノウキ姫を救うべく、若き騎士であるシンニュー・シャインが奮闘する内容だ。
スポットライトで照らされた俳優、女優がそれぞれのコスチュームに身を包み、オーバーアクションの演技。
『僕は、ノウキ姫を救いたいんだ!』
しかし、同じ舞台にいる中年男が否定する。
『シンニュー・シャインが、何を言う! 貴様は、帰れるうちに帰っておけ! どうせ、帰りたくても帰れんようになる……』
その時に、舞台袖から走り寄った男が報告する。
『伝令! エイギョー騎士団が勝手にノウキ姫の条件を変更した模様!』
ざわつく舞台上。
中年男が、おおげさに怒る。
『おおっ! 何たることか!? だが、連中を蹴飛ばし、左右の腕の振りで連打している暇もない! 我々、システム騎士団こそ、真に国を憂う――』
言っている間に助けろ、とは禁句である。
ミュージカル的に、全員で歌い、くるくると踊り出す役者たち。
上に張り出した観客席は、上位貴族や王族のため。
他に誰もいない個室で、舞台のあるほうがオープンテラスのような構造だ。
その1つに、まだ学生と思しき男女の姿も……。
ソファに座っている男子、ティジャン・シュトロイベル。
彼は、自分の横にいる婚約者、フランベル・デ・レオルミナスを横目で見た。
観劇の邪魔にならないよう、小声で呟く。
「なあ? 最近、ジンはルイーゼと仲がいいようだな?」
「うん……」
生返事のフランベルは、不貞腐れている感じ。
下にある舞台を見たまま。
そちらを見たティジャンが、息を吐き、真面目な顔に。
「お前は……ジンと結ばれたいのか?」
「えっ!?」
驚いたフランベルが、初めてティジャンを見た。
いっぽう、彼は話を続ける。
「俺たちは、政略結婚だ! 解消したいのなら、真剣に考えるよ……。ただ、フレムンド学院を卒業する直前とかに言い出すのは、やめてくれ! その場合は俺も就職活動をしなければいけないし、会計のようなスキルも習得しなければならん」
下の演劇が盛り上がっていく中で、フランベルは逆に現実へ戻された。
「あっ……。ご、ごめんなさい! あなたの気持ちを考えずに……」
苦笑したティジャンは、淡々と告げる。
「今更だ……。あいつより俺を好きになれ、とは言わない。でも、政略結婚としてお互いに愛す姿勢は見せてくれ。頼む……」
「う、うん……」
王女が言われていれば、世話のない話だ。
ティジャンは、それ以上の発言をせず、下の演劇を眺める。
フランベルも倣いつつ、ゆっくり息を吐いた。
(私に、そこまでの覚悟はない……)
何でも用意される王族の暮らしを捨てて、1人の男と苦楽を共にするなど。
(ルイーゼ、あなたはどうなの?)
学院にいる間で今のようなドタバタなら、学生の火遊びと、不問に処されるだろう。
しかし――
(侯爵家は、王家とほぼ同じ家格……。そこを追い出されたら……)
膝の上で拳を握りしめたフランベルに、観劇の内容は入ってこない。
対する演劇は、シンニュー・シャインが犠牲になったことでノウキ姫は救われた。
第二部で、そのシンニューは騎士団を辞め、辺境でスローライフを始めるのだが、今回は終わり。
◇
俺は平和な日々を送りつつ、1つの疑問を抱いていた。
(何で、俺だけ魔法を使えるんだ?)
フレムンド学院の資料を読み漁っていたら、どんどん怪しく感じる。
古龍カーヌスは、何か知っている?
『女神たちが眠ることで、マナを封印したからだ!』
そこだよなあ……。
お前の発言を信用するとしたら、俺は何なんだ?
『フレムンドだろう?』
いい加減に、フレムンド構文をやめろ!
心の中でツッコミを入れたら、気になる本が目に入った。
「勇者の伝承に……英雄フレムンドと初代聖女の冒険か」
前者の分厚い本を開いてみる。
男の勇者が女神の導きによってパーティーを組み、滅びをもたらす帝王を打ち倒した……。
「ハーレムパーティーだな? 職業はバランスがいいものの、女ばかり」
英雄フレムンドの冒険。
こちらは……初代聖女も前に出るタイプだったとか。
挿絵として描かれていたのは、俺が身につけた装備一式による美少女。
「俺のイメージと同じ? それは別に、おかしくないが……」
『だから、お前がフレムンドだろう?』
少し、黙っていろ!
ん?
んんん~?
何かに気づいた俺は、2冊を開いたままで、見比べる。
「勇者とフレムンドは、どちらも魔法を使っていた……。女神の祝福……。時期も違う……。活動していたエリアは――」
殺気に気づいて頭を低くすれば、遅れて風切音。
ダンッ! と、ダガーが後ろに突き刺さった。
チラッと見ると、投げるのに適した形状。
「誰だっ!」
言いながらも、魔法による身体強化で足場を蹴り、一呼吸で出入口を通り抜ける。
内廊下を走り去るのは、1人の女子だ。
少なくとも、後ろ姿は……。
廊下を蹴ることで大きくジャンプして、一呼吸で角を曲がるも――
そこには、大勢の女子が通り過ぎるところ。
(逃げられた!)
見回すも、不思議そうに見返す女子がいるだけ。
やがて、俺を無視する形で、その集団が通り過ぎた。
資料室へ戻ってみれば――
刺さっていたダガーはなくなり、その形跡だけ。
「本が!?」
開いていたはずの2冊だけ、なくなっていた。
代わりに、女子の走り書きのメモ。
“知りすぎてはいけない。きっと――”
「後悔する……か」
目的は不明だが、あの勇者とフレムンドに共通点があると言ったも同然だ。
それは――
『魔法、だな?』
「ああ、そうだ……」
余裕がなかった俺は、思わず口にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます