第65話 お嬢様ばかりの聖女科にいる騎士組の恋バナ
ジンが、王侯貴族科でまったり過ごしていた頃……。
彼らが『騎士組』と言っていた女子たちが、外にあるテーブルを囲んでいた。
そのうちの1人は、第三王女のフランベル・デ・レオルミナス。
向かいに座っているのは、いかにも活発そうな栗色で長い髪をした少女。
明るい茶色の瞳は、ジト目だが……。
上品な雰囲気で線が細いものの、高位貴族の令嬢としては直接的な感じ。
もっと言えば、剣を握っているほうがお似合い。
その意味では、正しく騎士組だ。
「婚約者がいるのだから、慎みなさい! 最悪、どちらの国も混乱するわよ?」
説教されたフランベルは、しょんぼりした。
ルイーゼロッテ・フォン・ホルムに、返事をする。
「うん……。婚約者のティジャンから、遠回しに嫌みを言われた」
「それぐらい、当たり前! で、浮気相手のほうは? ティジャンと同じ王侯貴族科にいるんでしょう?」
心配した声音に、フランベルはあっさりと答える。
「友人になったらしいよ? けっこう、仲が良いみたい」
「はぁああああっ!? いや、何で?」
顔芸をしたルイーゼロッテに、フランベルの返事。
「私が、行き倒れたジンを助けただけだし……」
「あなたの頭の中では、そうなんでしょうね、あなたの中では……」
頭痛がする様子のルイーゼロッテは、ふと気づく。
「先に言っておくけど……。もう、あの男には近づかないでね?」
「えっ!?」
驚いたフランベルに、忠告する。
「男子のほうでは、『フランに近づかない』という話だと思うわよ? でなきゃ、こんなにあっさり許さないわよ! いくら、人望と家格があるベルントが紹介しても! というか、曲がったことなら、ベルントが決闘しそう」
「……そうかな?」
意味ありげに粘るフランベルに対して、ルイーゼロッテは息を吐いた。
ジンについて、語り出す。
「あいつ、フェルム王国の元貴族だかじゃない? 外交問題になるわよ……。それも、『弱かったからランストック伯爵家を追放された』と、よく言えたもの! ふざけているの? 素性はともかく教官が持つ魔剣をぶった切れるソードを持ち、初見で精霊術にも勝ったわけだし――」
「ルイーゼは……ジンのことが好きなの?」
小さく震え出したルイーゼロッテは、怒りを抑えたままで、諭す。
「あのね? 私は、あなたのために話しているのよ?」
「……ごめんなさい」
フランベルの謝罪に、ルイーゼロッテは脱力した。
「あなたの気持ちがどうあれ、もう諦めなさい……。私たちは政略結婚しか、選択肢がないのだから! ティジャンと一緒に、観劇でも見に行ったら? あいつは考えすぎるけど、悪い奴じゃないわ。学生のうちに、下地を作っておきなさい! 卒業したら、現実が待っているだけよ? 支えになるのは、そういう思い出」
頷いたフランベルも、息を吐いた。
「そうだね……。私――」
「あらあら! 騎士組の方々は、政略結婚への理解もなかったようですね?」
悪役令嬢みたいなセリフ。
うんざりしたルイーゼロッテが、座ったままで振り向いた。
「エステルか……。こちらとは、不干渉の約束でしょ?」
広げていた扇子を閉じたエステル・ブルーニ・ジュランが、本題に入る。
「騎士科が、ろくでもないことを
「私たちとの関係は?」
「聖女科に騎士組がいることで、目をつけられました……。特に、あなたは婚約者がいないでしょう?」
「うら若き乙女に、筋肉バカの騎士科が襲うっての? 騎士道精神もへったくれもないわね!」
ルイーゼロッテの愚痴に、エステルは再び扇子を広げた。
口元を隠したままで、言い返す。
「お似合いでは? ともあれ、聖女科の話ゆえ、先にお知らせしました。あなた方が騎士科とほぼ同じ専攻だったことで、言い逃れはできません」
「バックアップぐらい、しなさいよ?」
扇子を下げたエステルは、息を吐いた。
「言われずとも、情報を集めています! おそらく、男女が交ざった状態での対戦になるでしょう。聖女科は騎士組しかいないので、残りの人員はそちらで調達してくださいね? では、失礼」
取り巻きを引き連れたエステルが、立ち去った。
フランベルは、不思議そうに尋ねる。
「仲、いいの?」
「腐れ縁よ! 聖カルム王国で、うちのホルム侯爵家とあいつのジュラン公爵家はほぼ対等……。それより、戦える人員を集めないと! 教官2人を倒したジンも引っ張り出さないとね! ……そいつとの対応は、私がやるわ。これ以上の勘違いは避けなさい」
ふてくされたフランベルは、しぶしぶ頷いた。
いっぽう、ルイーゼロッテが呟く。
「ああ、もう……。ただでさえ、実家からの縁談で大変なのに……」
首を振ったあとで、フランベルを見る。
「エステルは口が悪いけど、信用できるわ! 少なくとも、この件ではね? フランから王侯貴族科に連絡して」
「ティジャンに話してみる! ところで、ルイーゼ? 私たち、親友だよね?」
無言の圧力に、ルイーゼロッテが閉口した。
「お願いだから、恋愛脳で話すのをやめて! そのジンには、まったく興味がないから」
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