第64話 男子だけの空間は平和の一言

 短い黒髪のイケメンで神経質そうな男子が、イケボで話しかけてくる。


「まあ、何だ……。お前も大変だったな?」


 何とも言えない目つきの彼に、応じる。


「分かってくれて、助かったよ……。てっきり、こちらの話を聞かずに全力で潰すと思った」

「何だ、それは?」


 フレムンド学院の食堂で、俺は正面に座っている男子に突っ込まれた。


 座り直した男子は、言い直す。


「事情を確認せずには、しないぞ? 元貴族の家系でドラゴアム共和国の議員の息子と言っても、俺は三男だし」

「いや、そこは大事だろう?」


 俺のツッコミに、話している男子が肩をすくめた。


「次男はスペアだがな? 三男の俺に、居場所はないさ! 政略結婚で第三王女のフランベル・デ・レオルミナスに婿入りできるだけ、恵まれている」

 

 はい!

 こいつが、フランベルの婚約者であるティジャン・シュトロイベルです!!


 いやあ、紹介された時には死を覚悟しましたよ!


 ククク……。


 やはり、俺はツイているではないか?


 ジト目になったティジャンが、突っ込んでくる。


「よく知らんが……。お前がロクな死に方をしないだろうことは、分かるぞ?」


「フッ! そんなに褒めるな」

「褒めていない」


 真顔で答えた、ティジャン。


 しかし、不思議そうな表情に。


「お前がフランと何でもないことは、理解した! ここは男女別で暮らすし、お前から口説かない限り、もう言う気はないが……」


「ないが?」


 オウム返しの俺に、ティジャンが尋ねる。


「そういうお前は、どうなんだ? 許嫁いいなずけや婚約者は?」


 離れた場所に住んでいる小人族3人の中で、望乃ののを思い出す。


「……後方正妻面をしている、子供みたいな外見の女がいる」


 今までの仕返しとばかりに、テーブル越しに身を乗り出すティジャン。


「そうか、お前はロリが好みと……。フランも童顔だし、注意しないとな!」


「勘弁してくれ」


 ティジャンが笑ったところに、ベルント・フォン・グラプシュ辺境伯令息の姿。


「楽しそうだね! 何の話だい?」


「ベルントか……。いや、ジンがロリコンだと白状したのでな?」

「やめろと言っただろ?」


 セルフサービスのため、両手で持つトレイを机に置きながら、ボックス席に座る。


 俺とティジャンが動きつつ、3人に。


 食事をしながら、ベルントが話す。


「婚約者といえば……。僕の婚約者も、この学院の聖女科にいるんだ! みなに紹介したいけど」


 彼は、言葉を濁した。


「どうも、知り合いのユズリハという人物から手紙をもらったらしくて。それ以来、『いえ、私は遠慮しておきます』としか言わないんだ」


 やべえ、杠葉ゆずりはが何かやっているよ!


 首をかしげたティジャンが、心配する。


「大丈夫か? そのユズリハに脅されている?」

「いや、大丈夫だ! 気遣わせて、すまない」


 笑顔で、ベルントが答えた。


 気づいたように、話題を変える。


「ジンが馴染んでくれて、嬉しいよ」

「世話になった、本当に……」


 辺境伯令息のベルントが王侯貴族科で紹介してくれたおかげで、ティジャンとも和解。


 爵位としては、子爵ぐらいの扱いだ。


 食事を済ませたティジャンが、話す。


「静かでいいな! ここは男子だけ……。それも、王侯貴族科の専用エリアだ」


「やっぱり、騎士科は荒っぽいのか?」


 俺の質問に、苦笑するティジャン。


「まあな……。卒業後はともかく、在学中はでかい面をしているよ」

「ティジャン?」


 ベルントにたしなめられ、ティジャンは口を閉じた。


 しかし、すぐに新しい話題を振る。


「そういえば、聖女科にいるフランは『騎士組』と言われているようだ」


「は?」


 俺が声を漏らしたら、ティジャンは説明する。


「要するに、蔑称べっしょうだな! 聖女科はお嬢様ばかりで、そこに馴染めない女子が一緒くたに言われている」


 言い終わったあとで、ため息をついた。


 ベルントが、すぐにフォローする。


「昔は聖女がドラゴンを倒したとか、あったそうじゃないか?」

「眉唾ものだろう……。昔に、フランのような女子がいたにせよ」


 考えたベルントが、ティジャンの話に続く。


「女子が直接倒したとは、信じがたいね……。今の教えのように、祈りによる奇跡じゃないか?」


 俺は、ふと疑問に思った。


「すまん! どうして『騎士組』になるんだ?」


 こちらを見た男子2人は、それぞれに説明する。


「高位貴族の令嬢か、それに準ずる女子は、全て聖女科に入るんだ」

「あまり言いたくないが、騎士科に上位の家はいない」


「へー! あれ? 聖女科のカリキュラムはどうなっている?」


 ティジャンが、分かりやすく告げる。


「ざっくり言うと、王侯貴族科の女子バージョンだ! 個人が好きに受講するが、優雅な講義は『騎士組』が受けにくい」


「ハブられていると?」


「よく言えば、住み分けだ! フランの話では、剣の扱いなどをやっているらしい。それもどうかと思うけどな?」


 ティジャンいわく、女子の友人はできたようだ。


 同じ騎士組として……。


「今の聖女は、教会の影響で『祈る者』という側面が強すぎる……。本来の姿が歪められているよ」

「ベルント? その辺にしておけ」


 周りをうかがうティジャンを見る限り、今の発言はマズいらしい。

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