第63話 これが本当のスクールカースト

「いきなり求婚されても、困ります」


 俺が返事をしたら、魔剣を折られた教官ドニ・カラベッタも同意する。


「そうだな……。アマスティア、さすがにその発言はないぞ? 冗談かもしれんが」


 お前は良い奴だ。

 あとで、折った魔剣をくっつけてもいいぞ?


 少女にしか見えないアマスティアは、エルフの特徴である尖った両耳で、首をかしげた。


 意味ありげな笑顔が、とても怖い!


「ともかく、私の担当では合格よ?」


「そ、そうか……。お疲れ」


 ドニが応じたら、長い杖を握っているアマスティアはくるりと背中を向けた。


 スタスタと歩き去るも――


『光の精霊が残っているぞ? あの女の仕業だな!』


 黒い大剣に封じ込められた古龍カーヌスが騒いだ。


 頭の中で響く声。


(気づいたことに、気づかれたくない……)


 どうせ、俺が気づかない手段に切り替えるだけ。


『まあ、そうだな……』


 遠巻きのギャラリーも、見世物が終わったように引き上げていく。


 グラウンドに残された俺は、空中にふよふよと浮かぶ光の精霊を無視したままで、ドニに話しかける。


「さっきの続きですが?」

「……実技は文句なしだ! お前、どこかの商会や貴族家で働いていたとかは?」


「一応、伯爵家で……。かなり田舎でしたが」


「そうか! なら、最低ラインは大丈夫か……。ここからは、俺も迷っている」


 場所を移しつつの説明で、フレムンド学院のどの科に入れるかが問題と判明。


「竜騎士と聖女を選ぶのが、ここの使命だ! そういうわけで、花形はやっぱりその2つ、騎士科と聖女科」


 汚れてもいい休憩室のベンチに座った俺は、向かいに座るドニを見た。


「なら、騎士科の最優秀が竜騎士に?」


 苦笑したドニは、腕を組む。


「そう単純なら、いいんだがなあ……。貴族の子供がいる王侯貴族科に忖度そんたくするから」


 聞けば、広く研究する錬金魔法科や、商売について学ぶ交易科もあるそうな。


「トップは王侯貴族科で、その傘下にいる武闘派が騎士科に入るんだ。あとは、錬金魔法科などの専攻による」


「王侯貴族科に、上の連中が集まっていると……。竜騎士は?」


 両腕を横に広げて肩をすくめたドニは、言い捨てる。


「国王陛下は年齢的にないが、だいたい王子! 『どこの?』とは聞くなよ?」


 ここはドラゴアム共和国で、周りには小国家ばかり。

 外交と、内部のパワーバランスに考慮した結果か……。


「いざとなれば、王子がドラゴンを倒してくれるんですね!」


「ハハハ! 違いない!」


 ウケたようで、ドニは自分の膝を叩いた。


 お飾りにできるものなら、やってみろ! だよな。


 俺は、そろそろ結論を出したい、と考える。


「入学するとしたら、どこへ? 騎士科しかないと思いますが」


「うむ! 実は、お前の入学試験をさせたベルント・フォン・グラプシュ辺境伯令息から推薦があってな? 『希望するのなら王侯貴族科でもいい』と言っていた」


「俺は、学費を払えないんですが……」


「順を追って説明するが、お前を入学させるのなら特待生! 寮の生活を含めて、まるっと面倒を見てやる! 悪く言えば、囲うわけだ。ベルントの提案は、将来的にお前を部下にしたいんだろ」


 ドニの説明で、俺は納得した。


「教官は、どちらがお勧めですか?」


「もちろん、気を遣わなくていい騎士科! と言いたいが」

「が?」


 ドニは座ったままで、ジロジロと見てきた。 


「お前、王侯貴族科へ行け」

「どうして?」


 息を吐いたドニは、首を横に振った。


「追及せんが、お前は貴族らしい雰囲気や仕草だ! ウチに来ると、目のかたきにする奴らが出るぞ? 下の騎士なんぞ、ゴロツキと変わらん」


「そうですか……」


 思案していたら、ドニが忠告する。


「ベルントが周りに紹介すれば、王侯貴族科のほうが過ごしやすい。そうでなくても、お前の実力なら、面と向かって喧嘩を売らなければ大丈夫だぞ? それに……」


 まだ、何かあるのか。


 身構えていたら、ドニは疲れた表情に。


「騎士科は、女子に縁がなくてな……」

「はい?」


「俺たちは暴力装置だから、まともな女子ほど近づかないんだよ! 家同士で婚約者がいる奴は、先輩に目をつけられやすい。相手が美人かどうかで判断する余裕もないのさ! そもそも、女がいない! だから外で女を買い、よけいにドン引きされる悪循環」


 ハーッと息を吐いたドニは、俺が聞きたくない名前を出す。


「お前……。フランベル・デ・レオルミナス王女殿下に、かなり気に入られているようだな?」

「不本意ですが」


 頷いたドニは、思い切って打ち明ける。


「フランベルは、ここに婚約者がいるんだよ! それも、同等の相手がな?」


「だったら、騎士科のほうが――」

「その婚約者さまの手下も、ゴロゴロいるぞ? 訓練に見せかけて殺されるか、再起不能にされるだけだ」


「あ、はい……」


 俺の顔を見たドニは、繰り返す。


「だからな? 味方のベルントがいる王侯貴族科を選べ……。大人しくしていれば、殺されるまではいかないだろう」


「そうします……」


 王侯貴族科という船に乗った俺は、ただ震える。

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