第60話 だいたい、古龍カーヌスのせいだ
首都レオンには、大勢の人が行き交う。
しばらく滞在したことで、慣れてきた。
『宿は決めたし、後はどうする?』
黒い大剣になった古龍カーヌスが、頭の中で話しかけてきた。
魔剣を見に行く!
『我も魔剣だと思うがな?』
いや、もっと普通の魔剣を知りたいんだよ。
『まあ、我に決定権はない……』
イマジナリーフレンドが黙り込んだから、武器屋へ向かう。
看板と出入りする客層で見極め、店内へ。
冒険者らしき男女が、使い込んだ服や防具を身につけたままで話し合う。
「そろそろ、買い替えか……」
「魔剣が欲しいね」
「あれは高すぎる!」
四角の壁には、展示用の長机がぐるりと囲む。
そこに置かれた剣は、比較的お高い代物だ。
いっぽう、打ち損じか、樽に突っ込まれた剣の束もある。
剣先を下にしており、お世辞にも大事に扱っているとは思えない。
『ふむ……。見習いの作ったやつか』
1本を抜いてみれば、カーヌスが言い捨てた。
素人の俺にも分かるほど、斬れないだろう、と分かる輝き。
値札は1つで、この樽に突っ込まれたものは同じ値段のようだ。
買取にならないよう、ソッと戻す。
棚に陳列された剣を見れば、値段の桁が違った。
その時に、カウンターで会話。
「ひゃ、100バームで、剣をくれ!」
「……あそこの樽に入っているやつなら、どれでも買えるぞ?」
面倒臭そうな店員。
いっぽう、若い男は必死だ。
「ま、魔剣はあるのか?」
「ハハハッ! んな小銭で買えるわけねーだろ?」
それっきり、若い男を無視した店員は、何か作業を始める。
俺は、ドカドカと歩いてきた若い男に場所を譲った。
そいつは樽に入れてある廃品をガシャガシャと漁り出し、上にある
「ひょっとしたら、この中に魔剣が……」
『あるわけないだろう?』
人の頭の中で届かないツッコミを入れるの、止めてくれない?
「くっ! こ、これだ!」
『ほう? それは、呪われているぞ?』
俺の黒い大剣、こいつに譲ってやろうかな?
そう思っていたら、若い男は古いデザインの長剣を持ったままでカウンターへ。
ボーッと見ていると――
「何の用だい?」
声をかけられた。
そちらを見れば、店員の姿。
「フェルム王国から来たんだが……。魔剣は、ここで買えないのか?」
驚いた店員は、すぐに説明する。
「そりゃまた、遠くから来たな? ああ! うちは武具を作るだけ……。魔剣はソードにいずれかの付与をするのさ! そっちは専門の魔法屋がいて、あるいは、聖女による儀式で作る」
「……聖女?」
ポケットから小銭を取り出し、店員に渡した。
愛想よくなった店員は、ニヤリと笑う。
「ここには、フレムンド学院があってな? 周りから王族、貴族が集まり、それに聖女候補の育成も行っているんだ」
「へえ?」
「竜騎士と聖女の認定では、古龍カーヌスに勝てるだけの魔剣を作るためでもある。要するに、一番強い奴と、一番強い魔剣を作れる奴のカップルだな」
「荒れそうな設定だ……」
俺が突っ込んだら、店員も肩をすくめた。
「実際のところ、次代の支配者たちのマウント合戦らしい! ま、俺たち庶民にゃ関係ない話さ」
多少なりとも貴族の事情を知っている俺は、げんなりした。
「ん? 竜騎士と聖女の組み合わせが、自分の婚約者と別だったら?」
ニヤニヤした店員は、よく気づいた、と言わんばかり。
「たまに、あるらしいぜ? その時には、この首都がお祭り騒ぎだ!」
普段は話せないのか、その店員は奥から出てきた親方に叱られるまで、喋り倒した。
親方にジロリと見られたので、俺も店の外へ。
そうだ。
せっかく首都だし、まともな服を買うか!
あと、話に聞いていた学院にも。
――フレムンド学院
鉄柵で仕切られた先には、優雅な空間が広がっている。
壁ではなく、中が見えるデザイン。
『魔剣が多い場所だな?』
そーだね!
カーヌスに、心の中で返事をした。
高い鉄柵に沿い、ぐるりと外周を歩く。
制服を着ている男女が歩き、チラッと俺を見るも、すぐに視線を外す。
「あ、ヤッホー!」
敷地内に、ブンブンと手を振る女子。
『応えなくて、いいのか?』
他人の振りをしているんだよ、察しろ!
いつの間にか到着していた第三王女のフランベル・デ・レオルミナスを無視して歩き出す。
彼女の傍にいるメイドは、顔が引きつっていた。
「姫さま!」
女の叫び声を聞きながら、歩いていく。
正門だ。
貴族の男女は、列を作っている。
(出入りにチェックが入るのか……)
紋章付きの馬車のままで入らないことを不審に思いつつ――
俺の周りに、数人が現れた。
どいつも魔剣を持っていて、今にも腰から抜きそう。
「何者だ!?」
「……魔剣を持っているな?」
別の空間に収納している黒い大剣、カレトヴルフの気配を感じ取ったらしい。
並んでいた貴族の令嬢たちが、俺を見たままで後ずさる。
(腕はそこそこか……。ここで戦うと、面倒だな)
辟易していたら、女子の気配が加わる。
その正体に気づいた俺は、嘆息した。
「やれやれ……」
ズザザッと両足でブレーキをかけたフランベルは、周りの注目を浴びたままで叫ぶ。
「私の知り合いよ!」
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