第50話 今は利害が一致しているビジネスパートナー
目の前に、生意気そうな少年が立っている。
邪魔にならない金髪と碧眼で、雰囲気は大人だ。
つまり、小人族の男。
実年齢は教えてくれなかったが、もう成人しているそうだ。
名前は、エリオット。
身長は低いものの、品があるイケメンだ。
「次は、何をすればいいので?」
直立不動で命令を待つ、この男。
俺が働いている奴隷商<レスレクティオ>で、買った。
ヤバい意味ではなく、俺の部下として。
それを遊ばせておいても、意味はない。
運用するべきだ。
エリオット。
こいつは、例のリーヌス・バーリー男爵に売られるはずだったが。
慇懃無礼というか、どうにも生意気な性格。
それゆえ、男爵が大喜びの杠葉たちを売ることで、先送りにしていたのだ。
(逆効果になったら、ここが潰されるからな……)
考えていたら、エリオットが催促する。
「ご指示を」
「お前に渡した金で、好きにしろ」
俺を見上げたままで首をかしげた奴は、預かっている小袋を前に掲げた。
「これだけの大金……。私が持っていて、本当に良いのですか?」
「お前の生活費でもある」
凄みのある視線で、エリオットが言う。
「私が持ち逃げか浪費するとは、思わないので?」
「したければ、やればいい」
即答したことで、奴の眉が上に。
「冗談です……。あなたに買われた奴隷であることは、
「そうか」
「あの男爵に売られるよりは、よっぽどマシです。その恩は返しますよ」
私のほうで運用してみます。
そう言い残し、エリオットは立ち去った。
仮の拠点にしている部屋――勤務先で住み込み――で、俺は息を吐く。
(どうにも、分からん男だ)
こちらを馬鹿にしている感じだが、目に見えての反抗はない。
(高度な教育を受けている感じで、言動もそうだ)
それゆえ、手に入れた金の半分ぐらいを使い、自分の奴隷に。
残り半分も、そいつに預けた。
リーヌス・バーリー男爵を始末するのは、簡単だ。
けれど、その家臣や親戚もいる。
貴族が暗殺されれば、草の根を分けてでも犯人を探し出す。
いや、「犯人を作り出す」と言ったほうが、より正確だ!
その対象は、間違いなく小人族。
エリオットは、その犯人役としてぴったりだ。
俺にとって、絶好のチャンス。
だから、お金を惜しまず買い、自由にさせている。
(お前が男爵を暗殺できる状態になれば、あとは用済みだ)
真実ではなく、周りが納得することが大事。
◇
(まったく、読めん……)
自分の主人であるジンと話したエリオットは、奴隷商<レスレクティオ>の敷地を歩きながら、首を振った。
ショタ好きの変態ではないようだが、腕力のない小人族に大金をはたくのは理解に苦しむ。
しかし、あの男爵に売られる前に救ってもらい、ここで裕福な市民ぐらいの生活を送っているのも事実。
預かっている大金の重さに、ピタリと立ち止まる。
(好きに使っていい、か……。もう少し早ければ、妹を買い戻せたかもしれんのに)
今となっては、遅い。
ため息をついたエリオットは、奴隷商のお頭と会う。
「奴隷を買いたいか……。お前の主人の名義になるぞ?」
「構いません! 力仕事を任せられる亜人を安く売っていただけませんか?」
――奴隷の待機場所
トカゲ人間のようなリザードマンの男は、腕を組んだ。
「なるほど……。俺が働き、その一部を貯めていけば、自分を買い戻せると?」
「ええ、そういう話です」
考え込むリザードマンが、質問する。
「そいつは悪くねえが……。お前に、何の得がある?」
「見ての通り、私は小人族。力仕事ができる人材が欲しい。あなたが働いた期間は利益を得られるうえ、そちらもいずれ自由を得られるから、恨まれにくい」
「お前が裏切らなければ、な? 面白そうだ。その話に乗ってやるよ!」
「よろしくお願いします」
エリオットは、預かった金で奴隷を買い、働かせていく。
奴隷商<レスレクティオ>に紹介料を払うことで、働く場を確保。
報酬の一部も、そちらにバックしている。
(何かあっても、責任をとるのは、あの男だ……)
そう思うエリオットだが、意外にも順調。
関係者に利益をもたらすことで、妨害されず。
自分を買い戻した元奴隷も、勝手知ったる場所に残り、今度は新人の奴隷を管理していく。
どんどん組織化されていき、エリオットは実質的なリーダーとなった。
主人のジンが所有しているものの、お飾りだ。
(チャンスは最大限に活かす! 悪く思うなよ?)
どちらも相手に責任をかぶせる目的で、話が大きく。
だが、エリオットには気になることがあった。
それは、男爵に売られる予定の小人族の女たちだ。
幸いにも、その男爵は社交で忙しく、まだ保留になっているが――
(もうすぐ、引き渡しだ……。その前に会っておくか?)
今の自分には、実働部隊がある。
妹の救出は間に合わなかったが……。
男爵へのレジスタンスを早めて杠葉たちを助け出すことも、
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