第46話 俺たちは交差しない旅路

 場所が悪かったな?


 心の中で別れを告げ、大規模な魔法を発動させる。


 ――共鳴振動、増幅!



『うわあああっ!?』

『何……逃げろおおおっ!!』


 連中が待ち伏せていた遺跡は、中から崩壊し始めた。


 ここで、大音量のナレーション。


『あああっ!? こ、これは、ツイていない! どうやら、『黄金の騎士団』の主力がいる場所が崩落したようです!!』


 はい。

 終わり!


 これなら、俺の仕業という証明は無理だ。


 目立たずに……ありゃ?


 完全武装のロワイド・クローだ。

 いつぞやに見た、槍を持っている。


「やはり、君は一筋縄ではいかないね……。だが、僕らもこの迷宮都市ブレニッケを代表するクラン! ここで君を倒し、名誉挽回といくよ!」


「「「おう!」」」


 他に、幹部らしい連中も。



 はあっ……。


 こいつらは、間違いなく、俺を殺しにかかる。


 できれば、ここで注目されるのは、嫌だったが――


『ギャアァアアアッ!!』


 上空で、何者かの叫び声。


 どう考えても、厄介事だ。


 上空を見たまま、アホ面をさらしているロワイドたちにならい、俺も振り返る。


 ……ああ、ドラゴンだ。


 どこからどう見ても、ドラゴンにしか見えない。


『グオオォオオオオッ!!』


 けれど、俺と目が合ったドラゴンは、緊張した様子で、バッサバッサと飛び去った。


 よく見れば、周りに小型のドラゴンだか、ワイバーンだかも、随伴している。



『え、えー! ただいま、クラン対抗戦の中止が発表されました!! この戦いは後日に再勝負する、ということで……』


「ふざけんなー!」

「こっちは、金かけてんだぞ!?」

「よし!」


 どこ見て、ヨシッと言ったんだよ?


 無責任なヤジが飛び交う中で、俺たちの戦いは幕を閉じた。



 このドサクサに紛れて、逃げる!


 上の貴族に狙われたら、もう終わりだ。

 とっとと迷宮都市ブレニッケから出て、『叡智えいちの泉』の3人と旅をしよう。


「待ってくれ、ジン君! ここは、街を守るために力を合わせて――」


 背中から追いかけてきたロワイドの声に構わず、俺は望乃ののたちとの合流を急いだ。


 知るか、ボケ!

 この機会に、望乃たちと親しくなりたいんだろ?




 ――『叡智の泉』の本拠地


 都市にいる住人が騒ぐ中で、俺たちは図書館のようなホームに戻ってきた。


 大扉をバタンと閉めたら、中からかんぬきとバリケード。


 今は、何が起きてもおかしくない。

 自分の身は、自分で守るだけ。


「中は?」

「……安全です!」


 一通りを見た衣緒里いおりが、叫んだ。


 大きなリュックを背負った望乃は、笑顔。


「このまま、脱出するですよね?」


「まあね……。杠葉ゆずりは!」


「聞こえている! こうなった以上は、仕方あるまい……。私たちが消えても、『ドラゴンの襲撃に巻き込まれた』か、『暴徒に襲われたか攫われた』となる。逆に言えば、ここで消えなければ――」


 ドンドンドン!


『冒険者ギルドで、招集がかかっています! 「叡智の泉」の皆さん! これは強制参加のため、拒否はできず――』


 肩をすくめた杠葉は、大扉を壊さんばかりに叩いている、外の人物のほうを見た。

 当たり前だが、誰かは不明。


「……まあ、こうなる! 私たちは先に行くぞ?」


 フード付きのマントを身に着けつつ、首肯した。


「ああ……。俺も、用事を済ませたら、追いかける!」


 小人族の3人は夜逃げのような状態で、予め用意した、使い捨ての魔法陣の中に立つ。


 潤んだ瞳をした望乃が、必死に訴えかけてくる。


「また、会えますよね?」


「大丈夫だ!」


 それを最後に、彼女たちの姿は消えた。



 もう、この本拠地に足を踏み入れることはない。


 そう思いつつ、いくつかの部屋を見ながら、足早に通り過ぎた。


 けれど、寂しく思えるのは、望乃たちがいればこそ!



「ロワイド……。お前は、格好をつけすぎたんだよ」


 独白しつつ、屋上にある換気用のスペースから脱出した。



 屋上から見下ろせば、無秩序に流れている人々。


 規則性はなく、ある者は前へ、ある者は後ろへ。


 家財道具を載せた馬車は、人波で立往生だ。


 それを後目に、立ち上がり、屋上をつたって、走り出した。


 まずは……。



 ―――ペルティエ子爵の館


 すぐに通されて、エルザ・ド・ペルティエの姿。


「行かれるのですね?」


「ああ……。約束は?」


 頷いたエルザは、パンパンと、手を叩いた。


 車輪による台車で運ばれてきたのは、貴金属やコインの山。


「以前に預かっていた鉱石と魔石……。残りの支払いですわ! ただし、飛来してきたギガント・ドラゴンとその取り巻きは、倒してください! あなた方が夜逃げする後始末の条件です」


「そちらの役に立つ、という条件だったものな? 承知した」


 俺があっさりと受けたことで、エルザは、ふうっと、ため息を吐いた。


 指で自分の髪をいじりつつ、本音を漏らす。


「本当に、出ていかれるのですね?」


「そうだな……。クラン対抗戦で目立ったから、『黄金の騎士団』だけではなく、他の連中も――」


 いきなり抱き着いてきたエルザにキスをされて、しばし無言に。


 そっと離せば、泣いている顔と対面する。


「行って欲しく、ないです……」


「すまない。俺たちは、旅に出る……。どうか、忘れてくれ」


「はい……」


 泣き顔のエルザに、今度は自分からキスをした後で、ひとまずの別れとなった。


 今生の別れになるのかは、神のみぞ知る。



 後ろ髪を引かれる思いで、受け取った金と一緒に次の場所へ向かう。


 彼女は、令嬢だ。

 元貴族でも、俺とは立場が違う。


 それに、夜逃げすることで、ここを統治するには外聞が悪すぎる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る