第44話 予選終了で始まる盤外戦術

 ――第2戦目


「てりゃあああっ!」


 小柄な望乃ののは、黒の着物を靡かせつつ、両手の大槌おおづちを振り回した。


 今晩の相手とニタニタしていた男の側頭部に当たり、ゴキャッ! と、その頭蓋骨を粉砕しつつ、振り抜いた方向へ吹っ飛ばす。


 大振りな攻撃であるものの、その回転を活かした望乃は止まらず。


 自分と同じぐらいの武器を振り回しつつ、もう1人の男の腹が大きく凹み、膝をつかせた。


 残りの女は、武器を手放して、降参。



 ――第3戦目


 青の着物に身を包んだ衣緒里いおりは、両肩に巻き付けている2本の鎖の片方を飛ばし、攻撃してきた男の首に巻き付けた。


 それを引くことで、地面に叩きつけられる頭部。


 別の方向にも鎖を飛ばし、とがった先端をぶつけることで、斬りかかってきたソードを止めた。


「そんな程度――」


 しかし、巻きついてきた鎖を振り払うか、衣緒里ごと引っ張る予定だった男は、剣を通して凍りついてきたことに驚愕する。


「ま、魔法武器かよ!? くっ! 何で、こんなスピリット風情が……」


 慌ててつかから手を離し、飛びすさる。


 だが、もう片方の鎖が飛んできたことで片手を縛られ、ギブアップ。


『そこまで! 勝者、「叡智えいちの泉」!!』



 華奢な小人族の女が、1人で荒くれ者のグループを完封。


 望乃と衣緒里も、それぞれに数人の武装した男を一蹴できると示した。


 弱小クランを振るい落とす予選リーグとはいえ、大人でも子供ぐらいの小人族の女が活躍したことは、政治的にも大きい。



 ――『叡智の泉』の拠点


 図書館のように静謐せいひつな、本に囲まれた空間。


 その長テーブルを囲み、俺たちは今後の方針を話し合う。


「自分の押しが大活躍で、『黄金の騎士団』のロワイドは大喜びか?」


 こちらの団長である杠葉ゆずりはは、不機嫌そうに同意する。


「だろうな……。『望乃と衣緒里のどちらも、僕の嫁にふさわしい。何なら、2人とも!』と、下半身をガチガチにしているだろうよ?」


 げんなりした2人が、苦情を述べる。


「その言い方は、やめてください!」

「実際にありそうなのが、何とも……」


 流れを変えるために、口を挟む。


「でも、全く戦わない杠葉は良く思われないよな?」


「まあ、そうだろう……。それより、いよいよ進退きわまった」


「えっ?」

「何があったんです?」


 望乃と衣緒里が、驚いた。


 首肯した杠葉は、深刻そうな表情に。


「うむ……。先に教えておくが、ロワイドの馬鹿は奴隷の小人族をなぶり殺しているリーヌス・バーリー男爵の手下になりさがった」


 え?


 驚いていたら、女2人が騒ぎ出す。


「ど、どうして!?」

「信じられません……」


 杠葉は、2人を見ながら説明する。


「この前のクラン対抗戦のパーティーで、奴はリーヌスに呼ばれ、その部屋で小人族の美女をあてがわれ、そのまま童貞を失った……。平たく言えば、奴は念願の『僕の考えた理想の嫁』を手に入れたわけだ」


 思わず、突っ込む。


「あいつだったら、高級娼館に行ってそうだが?」


「奴は童貞臭い、小心者だ! 裏で割り切った関係を築けるぐらいなら、私たちにねちっこく、遠回しのアプローチを続けんよ? リーヌスが連れてきた女に咥えられ、辛抱たまらず、そいつの処女を散らしたと……。おそらく、媚薬か興奮剤も飲まされた」


 妙に具体的な、杠葉の説明で、さらに質問する。


「お前の情報源、どこだよ?」


「ま、色々とな……」


 肩を竦めた杠葉は、とぼけた。



 ◇



 俺の前に、『黄金の騎士団』のトップである、ロワイド・クローがいる。


「……何の用だ?」


「警戒せずとも、大丈夫だよ。……君を貴族に戻そう! すでに落ちぶれたランストック伯爵家ではなく、カスティーユ公爵家の傘下にいる、れっきとした貴族家の次期当主としてだ!! 騎士爵という、もどきではない」


 肩をすくめて、その提案を蹴る。


「代わりに、『叡智の泉』を抜けて、あいつらに関わるな、と?」


「悪い話ではないと、思うけどね? それに、小人族はそれに見合った環境のほうが幸せだ。そうだろう?」


「あいつらの幸せは、あいつらが決めることだ」


 苛立たしげに、ジャリジャリと片足を動かしたロワイドは、本音を告げる。


「ハッキリ言うと、カスティーユ公爵の甥であるバーリー男爵は、小人族を奴隷にして、いためつける趣味をお持ちでね? クラン対抗戦でアピールすれば、彼女たちの破滅になる! 手紙で知らせたが、無視されたようだ。君からも、クラン対抗戦から降りるように説得してくれないか?」


 ただの切り崩しだ。


 そう判断して、きびすを返す。


「知らん! お前は、せいぜい自分の心配をしろ! じゃあな……」


「残念だよ……。次の対戦では、『黄金の騎士団』は全力を出す! 君を叩き潰す」



 ◇



 行きつけの飲食店で、望乃は思わぬ人物と会った。


 断りもなく同じテーブルに座った男が、口を開く。


「やあ!  一対一で会うのは、初めてかな?」


 ロワイド・クローだ。

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