第43話 クラン対抗戦の予選スタート!

 ――数日後


 童貞を捨てたロワイド・クローは、王族とも言われていた小人族のユリアーネ・シュトローマーにド嵌りした。


 覚え立てだけに、歯止めが利かない。


 高級宿の一室で囲い、クラン対抗戦が終わった後に改めて、『黄金の騎士団』に迎え入れるかどうか? を考える。


「じゃあ、また来るよ」

「はい!」


 足繫く通うロワイドと、笑顔のユリアーネを見れば、恋人同士のようだ。


 けれど、その扉が閉まれば、彼女は真顔に。


 しくしくと泣き出し、その場で崩れ落ちた。



 ◇



 クラン対抗戦。


 この迷宮都市ブレニッケは、冒険者が多い。

 ダンジョンに潜ることで実戦経験が豊富なうえに、人材の宝庫だから。


 一攫千金や大手クランの幹部を夢見て、農家の次男、三男といった、死ぬまで日陰者や親が決めた婚約者が嫌で娼婦にもなりたくない女たちが、押し寄せてくる。


 むろん、日の目を見るとは限らず、知らずに入った悪徳ギルドで男は奴隷、女は慰み者にされた後で、結局は娼館に売り飛ばされるか、ダンジョン内で消されることが日常茶飯事。


 冒険者ギルドは、日和見だ。

 管理する余裕がなく、自分の身を自分で守れない馬鹿は、早く引退するか、自滅しろ。とまで思っている。

 嫌なら、冒険者など、やらなければ良い。


 それゆえ、大小のクランが乱立しており、俺たち『叡智えいちの泉』のような数人から、二軍、三軍に裏方までいる『黄金の騎士団』まで、色々。


 人数は、戦力そのもの。

 大きいクランほど、役割分担や先輩の助けでパワーレベリングをやりやすい。

 いずれ恩を返すにせよ、武具や回復アイテムを貸してもらうなど、福利厚生も充実!


「だから、弱小クランの俺たちは、まず予選を突破する必要がある……」


 その独白に、『叡智の泉』の団長である小人族の女、杠葉ゆずりはが、ジト目になった。


「私の前で、よく言えたものだ……。事実だがな?」


 次に、真剣な表情へ。


「ジン? 分かっていると思うが、私たちは『そう簡単に負けられない』という立場だ……。『叡智の泉』の遠征で、事前に鉱石を盗んだのでは? と疑われているうえに、あちらの団長ロワイド・クローも、そろそろ本腰を入れて、私たちをモノにする頃合いだ!」


 首肯した俺は、杠葉を見下ろした。


「もう、ブレニッケを立ち去る時期だな……。けれど、追っ手を防ぎ、新天地で俺たちが舐められないためにも――」

「このトーナメントで、力を見せつける必要があるんです!」


 望乃ののが、俺のセリフを奪った。


「ああ、そうだ! 第1戦目は、1人でやるぞ? ……俺が注目されている以上、まずは強い印象を与えるんだよ。分かれ」


 ため息を吐いた望乃は、しぶしぶ頷いた。


「はい……」


 その時に、コロシアムと待機スペースを区切る、鉄の柵が動き出した。


 いよいよ、試合開始だ!



 4人で、丸いグラウンドに出てみれば、周囲で階段状に座っているギャラリーがヤジを飛ばしてきた。


 弱小クランの予選とあって、見物客は少ない。

 昼から酒を飲んでいる奴らも多く、ガラが悪いようだ。


 当たり前だが、周りとは違う、バルコニーの貴賓席には……。


 おいおい。

 貴族さまが、ズラリと並んでいらっしゃるぞ?


 俺に視線が集中しているが、杠葉たちにも好色な視線。


 杠葉が、俺の耳元で囁く。


(ロワイドが、小人族の奴隷をいたぶる男爵がいると……。その関係もあるだろう)


 なるほどね……。


 ま、サクサク倒しますか!



「……モヤシ君と、エレメンタル3人かよ!?」

「ラッキーだな!」

「お前ら! 降参するのなら、今のうちだぜ?」


 対戦相手のクランは、男が3人。


 使い古した皮鎧と、頭にバンダナ。

 片腕に、小さな木の盾。


 さやから、ショートソードを抜いた。



 俺は、杠葉たちの前に歩み出る。


 左腰に吊るしている剣は、まだ抜かない。


 その軽装を見たことで、奴らが笑った。


「後ろの小人族を貸すのなら、手加減してやるぜ?」

「俺たちの人数と同じで、ちょうどいいな! ハハハ!」


 やがて、アナウンスにより、戦闘スタート。


 俺は立ったまま、体の前で、両腕をクロスした。


 ――超音波による、多重アクション


 目に見えない超音波が、剣を振りかざし、突っ込んできた奴らに浸透した。


「う、あ……」

「てめ、何を……」

「がっ!」


 白目をむいた奴らは、走りながらショートソードを落とし、倒れ込んだ。


 誰も、起き上がらず。


『そ、それまで!』


 驚いた群衆が、遅れて歓声を上げた。



 何をしたのか? を理解した者はおらず、貴賓席からの視線が強まる。


 後ろで控えていた、杠葉たちも俺に続き、入ってきた場所から屋内へ……。



 ひんやりした暗がりを進みつつ、嘆息する。


(ここからが、問題だな?)


 いずれは、『黄金の騎士団』と当たるだろう。

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