第41話 上品な奴隷市場
全員が見守る中で、真顔のロワイド・クローはリータを見る。
「そいつは……。ここへ来るのかい?」
「は、はい! カスティーユ公爵と仲が良く、今回は領地の1つである迷宮都市ブレニッケの視察も兼ねていれば」
言い方で察したロワイドは、ため息を吐いた。
「周りの貴族が大集合。そいつだけ除け者にすれば、末代までの戦争か! まいったね、これは……」
思わぬトラブルに、悩むロワイド。
巨体のジャンニは、あっさりと宣言する。
「クラン対抗戦だぜ? いくらジンが強かろうが、『
「ま、そうじゃな……。ロワイド! 考えすぎも良くないぞ?」
しかし、そのリーヌス・バーリー男爵の目に留まれば、叔父の威光によって強引に
ロワイドは、悩んだ末に結論を出す。
「僕が手紙を書こう! 小人族を奴隷にしている腐れ貴族がやってくるから、目立たないようクラン対抗戦を辞退してくれ、と。ジン君の売り込みは、前のコロシアムの決闘で何とかなる」
けれど、その手紙に返事はなかった。
ロワイドは不安を隠せないまま、『黄金の騎士団』としての準備を進める。
『叡智の泉』のエントリーを見た後には、僕が守らねば、と気合を入れて、根回しや情報収集に勤しむ。
「いざとなったら、僕がバーリー男爵と対決してでも彼女たちを守るさ……」
身を挺して守る姿を見れば、
『黄金の騎士団』の評判も、良い方向へ変わるだろう。
「ここは、迷宮都市ブレニッケだ……。貴族どもが遊び場にしていい場所ではない!」
お姫さまを守る勇者になった気分の、ロワイド・クロー。
彼は、知らない。
大手クランの『黄金の騎士団』を抱えた時点で、そういった英雄譚とは無縁。
むしろ、海千山千の貴族に懐柔され、使われる存在であることを……。
ロワイドに、今の立場を捨てて杠葉たちと再出発をするだけの度胸はない。
◇
コロシアムで開催されるクラン対抗戦は、娯楽が少ない中世ファンタジーの世界でのお祭りだ。
周辺から人が押し寄せ、それを目当てとする行商人や出店も……。
「はい、買った買った! 一番人気は、やっぱり『黄金の騎士団』――」
どこが優勝するのか? の賭けも、盛況だ。
ジンが強くても、数の暴力には敵わない。
それが、一般的な意見だ。
◇
あっという間に月日が流れて、貴族や参加クランを招いてのパーティーが開かれる。
主催者はもちろん、領主のペルティエ子爵。
『黄金の騎士団』と『叡智の泉』も、当然ながら招かれた。
貴族と平民は、同じ人間ではない。
まして、暴力だけしか能がない冒険者となれば……。
「どのような連中でしょうな?」
「顔が良ければ――」
貴族のスペースは、豪華絢爛。
長テーブルにご馳走が並べられ、庶民の年収レベルの酒が振る舞われる。
彼らは、相対的に貧相な参加クランが滞在するスペースを見ていた。
まるで、動物園の珍獣を見る光景だ。
「これより、クラン対抗戦にエントリーした方々をご紹介させていただきます!」
司会の声で、貴族たちによる拍手。
けれど、その顔つきは、馬鹿にしきった様子だ。
ある意味では、クラン対抗戦よりも危険なパーティーが始まった……。
ペルティエ子爵が主催するパーティーで、洋館のホールにいる面々。
クラン対抗戦に参加するチームは、居心地が悪い。
その空間がせまいうえ、煌びやかで優雅な貴族側と大きな差がついているから。
動物園にいるような貴族サイドに、迷宮都市ブレニッケの冒険者たちは嵐をやり過ごすだけ。
好き勝手に批評する貴族どもをやり過ごし、彼らが退出した後で、ようやく人心地をつく。
『黄金の騎士団』の団長であるロワイド・クローは、中高年のレディから好色な目線を向けられ、ゲッソリとしていた。
「少し、甘く見ていたのかもしれないね……」
普段なら、大勢が集まった場では言わないであろう愚痴すら、飛び出したほど。
その時に、1人の執事が近づいてきた。
「失礼……。あなたが『黄金の騎士団』の団長、クロー様でいらっしゃいますか?」
「……だとしたら?」
警戒しながらの返事に、執事は作り笑いのまま。
「我が主、リーヌス・バーリー男爵のお呼びです。『お時間があれば、ぜひ話をしたい』と
まさに、小人族をいたぶっている悪人だ。
眉をひそめたロワイドは、どうするべきか? と悩む。
それを見透かしたように、執事は彼の耳元で囁く。
(我が主人は、先ほどの『叡智の泉』に興味を持たれていますよ? あなたが断れば、そちらをお呼びになるでしょう)
自分が執心している女たちが、貴族の嬲り者にされてしまう。
最悪の未来を想像したロワイドに、選択の余地はなかった……。
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