第39話 オール・オア・ナッシング
興味を持ったロワイド・クローは、笑顔に。
「それで?」
「ジンを貴族の勢力争いに巻き込み、私たちが戦う場を用意すると同時に排除する……という案です」
役員机の前に歩いたロワイドは、ニコニコしたまま、机に腰かけた。
「面白いね……。君が考えたのだから、どちらに転んでもウチが得するのだろう?」
「はい、団長! ペルティエ子爵家の後ろ盾であるカスティーユ公爵家を動かし、このブレニッケでクラン対抗戦! これならば、ウチは『トーナメントを勝ち上がって優勝する』という目標で一丸に……。問題となるジンも、観戦した貴族のいずれかが取り込みに動くでしょう」
ご満悦なロワイドは、手を叩いた。
「いいね! 冴えているよ、リータ! 彼は僕と対等に戦えるほど強いが、クラン戦となれば勝ち目はない。それを覆せば、観戦していたカスティーユ公爵家も黙っていまい……。傘下のご令嬢を宛てがい、臣下の一族に取り込む。断れば、公爵さまの不興を買うため、さすがのペルティエ子爵も手の平をかえすね!」
「ウチが勝てば、『
盛り上がるリータだが、次のロワイドの発言で背筋が凍る。
「流石だね! でも、冒険者に過ぎない僕らには、判断に困る話だ……。リータ・グリッロ、君を団長代理に任命する! この件に関して貴族だった君に全権を預けるから、頑張ってくれ」
思わぬ展開で、リータは息を呑んだ。
「え? い、いえ、そこまでは――」
「これは命令だ……。断ってもいいが、『ウチを立て直せる機会を逃した』という扱いになるよ?」
顔を伏せたリータに、ロワイドが優しく言う。
「君にとっても、大きなチャンスだ! グリッロ家の再興についても、具体的に考えよう……。この案を実行すれば、君も貴族とのコネができるだろう? 良いこと尽くめじゃないか!」
見つめる幹部たち。
もはや後に
「やります! やらせてください!」
「そう言ってくれると、思っていたよ……」
ロワイドは言いながらも、失敗した時のリータの処分について考える。
◇
俺たちは、『黄金の騎士団』の報復を警戒していた。
けれど、行きつけの店で態度が変わることもなければ、暴漢に襲われることもなし。
ペルティエ子爵家のエルザ・ド・ペルティエに渡した、鉱石と魔石。
その利益のおかげで、ダンジョンに入らずとも裕福な暮らしだ。
「あいつら、大人しいな?」
「どうせ、悪だくみをしているんです!」
焼き鳥をモグモグと食べている望乃を見下ろしながら、そうだな、と返した。
広場に辿り着き、空いているベンチに座ろうと――
人だかり。
その視線の先には、大きな看板がある。
古代の魔法が付与されているらしく、立体的な映像と音声がリピートされる。
『近日中に、クラン対抗戦を行います! ダンジョンで鍛え上げた強さを発揮して、このブレニッケの名前をフェルム王国に轟かせましょう!! 領主のペルティエ子爵は周りの貴族を招くため、貴族に召し抱えられるチャンスでもありますよ? トーナメント方式で、勝ち上がるクランを当てれば――』
「騒がしいから、戻るか?」
「はい!」
――『叡智の泉』の拠点
図書館を思わせる、静かな場所。
玄関ドアを開けた俺たちは、お土産の料理を下げながら、奥へ……。
リビング代わりの長テーブル、ソファーがある場所で、団長の
「どうした?」
「お土産、ありますけど……」
こちらを見た杠葉は、真面目な顔。
「ジン……。あいつら、かなり面倒な方法で喧嘩を吹っかけてきたぞ?」
クラン対抗戦への強制参加と聞いて、俺と望乃も悩む。
「そうきたか……」
「私たちを引きずり出して、どうするつもりでしょう?」
杠葉が、すぐに答える。
「それは簡単だ……。私たちから、ジンを引き剝がすのだろう」
「ジン1人が活躍すれば、観戦している貴族が黙っていませんから……」
衣緒里の補足で、事情がよく分かった。
「このクラン対抗戦に参加するのか、するのなら、どういう結果を望むのか……だろう?」
沈黙が流れた。
全員の視線を感じながら、俺は結論を言う。
「全力を出そう! 貴族に目をつけられるのを恐れて、縮こまれば、あいつらの思うツボだ……。あいつらより下の結果になれば、『弱いクランを保護する』という名目で外堀を埋めてくるぞ? 強いほうが、俺たちの主導権を渡さずに済む」
フッと笑った、杠葉。
「お前は、私たちと共にある……。そう考えて、いいのだな?」
「もちろんだ……。おそらく、このクラン対抗戦が迷宮都市ブレニッケで過ごす最後の期間になるだろう。……構わないか?」
「このメンバーで過ごせるのなら、どこでもいいさ」
「望乃は、ジンと一緒にいます!」
「私も、みんなで暮らせる場所がいいですね……」
見ていろよ、ロワイドと、その手下の『黄金の騎士団』ども……。
ここからは、お前らをぶっ飛ばす時間だ。
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