第38話 相容れぬ存在

 ダンジョン内の天幕から出たら、周囲で聞いていた連中が一斉に顔を背けるか、足早に去っていく。


 そいつらは下っ端で、敵意を見せている奴もいれば、興味本位の視線も……。


 全く構わずに、待っている望乃ののたちの天幕へ。


「そろそろ、本気で迷宮都市ブレニッケからの脱出を考えなくては……。お前にも、存分に働いてもらうぞ?」


 杠葉ゆずりはの問いかけに、俺は気軽に応じる。


「ああ……。今回の遠征で、『黄金の騎士団』は金銭的に大穴が開くだろう。傘下の弱小クランにあそこまで舐められて、団長のロワイドも内部での威厳を下げた……。地上に戻ったら、なりふり構わず、仕掛けてくるだろうよ?」


 金がないのは、首がないのと同じ。


 これだけ人数が多ければ、毎月の出費だけで、とんでもない額だろう。



 翌日の朝に、遠征の終了が宣言され、大所帯は地上を目指す。


 5階層まで降りて、その成果はゼロ。

 俺が予め鉱石をとって、モンスターと階層ボスを倒していたからな?



 ――数日後


 遠征に協力したクランへの招待状が、『叡智えいちの泉』に届いた。


 俺の名前もあり、ダンジョン内で失礼をしたモブ団員と幹部のジャンニに謝罪させる旨も……。


 どうやら、関係を修復したいようだ。


「敵地に乗り込んで、奴らが用意した料理を飲み食いする度胸はない」


 団長の杠葉は、ご立派な招待状を長テーブルの上に放り投げた。


 囲んでいる望乃たちが、順番にそれを読む。



 俺は、椅子に座ったままで、対面の杠葉に話しかける。


「で、次はどうする?」


 優雅に紅茶を飲んだ杠葉は、フッと微笑んだ。


「相手の出方による……。奴らが暴走するか、誰かを雇って仕掛けてくるなら、逆にやりやすい。だが、ロワイドは自分の評価を下げるような真似はすまい……。裏で手を回して私たちをジワジワと追い詰めることは、やりそうだが」


「陰険だな……。それで、救いの手を差し伸べて、マッチポンプか?」


 クッキーを齧った杠葉は、俺を見つめた。


「一番ありそうなのは、お前を殺すか言いなりにするため、型に嵌めることだ……。弱みを握られないよう、せいぜい注意しておけ!」


 自分のティーカップを持ち、グイッと飲んだ後に、感想を述べる。


「やられたら、やりかえしても良いんだろ?」


「むろんだ……。冒険者に頼れるものはなく、全て自己責任! 黙っていれば、遠からず奴隷にされるだけ! どうせ、たった4人のクランだ。反撃のチャンスを得たのだから、後悔しないようにな?」


 ため息を吐いて、椅子の背もたれに身を預ける。


「ようやく、ここの生活に慣れてきたと思ったら、もう夜逃げの準備か……。どこへ行きたい?」


 杠葉は、残りの2人を見た。


「王都にでも、行ってみるか?」


 目を輝かせた望乃と、衣緒里いおり


「はい!」

「賑わっているから、退屈しないでしょう……」



 ◇



「遠征の赤字を埋めるには、それしかないね……。僕が趣味でやっている小人族への支援を打ち切り、その分をしばらく補填に充てる! ただし、君たち幹部にも、それなりに負担してもらうよ? 団員のノルマも、少し引き上げよう。一時的という、触れ込みで……」


『黄金の騎士団』の団長、ロワイド・クローは、ポツリと呟いた。


 本拠地の執務室に集まっている幹部たちは、戦々恐々。

 誰も、口を開かず。


 ロワイドは、ご立派なデスクの椅子から立ち上がり、コツコツと歩き出した。


「ダンジョン遠征は、大失敗だ……。この迷宮都市ブレニッケでは、何の成果もなく、すごすごと引き返した僕らが酒のさかなになるだろう」


 見かねたカリュプスは、たしなめる。


「自虐しても、仕方あるまい……。『叡智の泉』のジンが鉱石を独り占めした可能性は高い! どうする?」


 両手を上げたロワイドは、答える。


「どうもしないよ! 団長の杠葉があそこまで啖呵を切ったうえに、確たる証拠はない。下っ端が暴言を吐いたことも、傘下のクランやウチの団員に広く知られている。しばらくは赤字の補填で締め上げるとなれば、内部もギスギスするだろう」


「今、下手に動けば、『黄金の騎士団』の信用と評判が地に落ちるか……。いや、内部の分裂で崩壊するな?」


 ため息を吐いたカリュプスに、オーク族のジャンニが吐き捨てる。


「ケッ! あんな連中、今からでも潰しちまえ!! さんざん、こっちの世話になっておきながら、何様のつもりだ!」


 誰も咎めない。


 本心では、皆がそうだから……。


 ここで、事務を統括している女の幹部が、口を開く。


「あの……。1つ、提案があります! 大義名分があれば、ウチが『叡智の泉』に改めて上下関係を叩き込めるんですよね?」


「言うまでも、ねーよ! ……ハイハイ。黙れば、いいんだろ」


 嚙みついたジャンニは、ロワイドに睨まれて、降参する。


 女幹部は、ロワイドの視線を受け、こくりと頷いた。


「えっと……。ここの領主であるペルティエ子爵は、ジンの肩を持っています。けれど、彼らも、より上位の貴族には逆らえないはず」

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