第37話 よく考えたら杠葉とは何なのか?
「鉱石が全くない!? ……それは、本当か?」
『黄金の騎士団』の団長、ロワイド・クローの気迫に、オーク族のジャンニは首をひっこめた。
「あ、ああ……。間違いない! 上の3階層だけじゃなく、この5階層の鉱脈でもだ……。線で引いたような跡から、あの野郎がやったと思うが」
言いながらも、ジャンニに勢いはなし。
『黄金の騎士団』が手を回して、ダンジョンを見張っていたのだ。
物理的に、あり得ない。
ドワーフのカリュプスが、鉱物の専門家として口を挟む。
「儂も、現場を見た。こやつが言うように、ジンがやったのだろうな……。けれど、証拠がなく、実行も不可能じゃ! 少なくとも、他のクランには説明のしようがない」
採取した鉱石の収入を当てにしていた『黄金の騎士団』は、この時点で大赤字が確定。
おまけに――
「ここに来るまで、階層ボスが全くいなかった……。他のモンスターも、異常なまでに少ない。魔石による収入もダメか……」
憔悴しきったロワイドは、声を絞り出した。
集まった幹部が見つめる中で、彼は決断する。
「ジンを呼んでくれ……。それと、例の魔道具も」
◇
ロワイドが、幹部用の天幕の中で、上座に座っている。
「わざわざ、すまないね? だが、この遠征で大事なことを確認したく、君を呼び出した。……
ほほ笑んだ杠葉は、あっさりと言う。
「お前のところの幹部と手下が、ジンに因縁をつけたからな? その苦情も、言っておきたい」
「それは、すまなかったね? ジャンニたちに、後で注意しておくよ……。その件にも関係するのだが、3階層とこの5階層にある鉱脈で、ごっそりと採掘されていたんだ。痕跡があまりに綺麗で、以前にジン君がやった行為に似ていた。それで、何か知らないかと、事情を聴きたいわけさ!」
(よく言うぜ……)
呆れた俺は、張り付けた笑顔のロワイドを見た。
失言を誘い、ダンジョンから帰った後で、型に嵌める気だな……。
周囲に張り巡らされた、発言の真贋を見抜く魔力を感じながら、俺は魔法を発動させた。
――周囲の魔法を解析
――反応する条件や、タスクを処理するフローを一時的に改ざん
「何を聞きたいんだ?」
俺の発言に、ロワイドは頷いた。
「君は、3階層と5階層で事前に鉱石を採掘したのか?」
「していない」
ロワイドは、傍に立つ女へ注意を向けた。
けれど、何も合図がなかったようで、少し焦った表情に。
「そ、そうか……。では、道中に階層ボスがいなかったことや、モンスターがいないことで、知っていることを全て話してくれ」
「モンスターを倒せば、魔石が残ることだけ、知っている。だいたい、階層ボスは、何のことだ?」
質問で返したら、ロワイドは混乱した様子に。
「ジン……。君は、僕たちを困らせたいのか?」
「質問の意味が理解できない。ただ、そこで睨んでいる豚野郎は、ぶん殴ってやりたいぞ? お前も、いきなり呼び出されて胸倉をつかまれたら、同じことを思うだろ? 謝るどころか、また喧嘩を売ってやがるし……。さっきの勢いはどうした? 今は団長さまの前で、叱られるのが怖いか?」
激怒した奴が、組んでいた両手を下ろしたことで、ロワイドが叫ぶ。
「やめろ、ジャンニ! ……杠葉、君はどうなんだ? これまで、僕たちは君のクランを長く支援してきた! その恩を仇で返すのかい?」
肩をすくめた杠葉は、冷たい視線。
「それは、こちらのセリフだ……。この遠征で、下っ端の団員ですら、『おい、こら!』と言ってきたことで、そちらの本性がよく分かった。『黄金の騎士団』に対する認識を改めさせてもらう」
「呼びに行かせた団員のことか? 彼については、すぐに――」
「不要だ! 今ここに呼び出せば、そいつは保身のために何でもするだろうよ? そして、他の奴らがまた同じことをする……。私は、『黄金の騎士団』の態度を問題にしている」
杠葉の発言に、ロワイドは黙り込み、他の幹部たちは殺気立った。
けれど、ロワイドが片手を上げたことで、踏みとどまる。
「幹部だけの場とはいえ、そこまでコケにされては僕の立場がない……。杠葉! この場で選んでくれ……。僕たち『黄金の騎士団』と、ジン君のどちらかを!」
悲壮な覚悟で叫んだロワイドに対して、杠葉はあっさりと返す。
「お前は、少し頭を冷やせ……。行くぞ、ジン!」
俺は、発言の真贋を知るための魔力を元に戻した後で、杠葉の後を追う。
一触即発の空気だが、
こいつらは平常運転だが、ロワイドがここまで杠葉に譲歩する理由は何だ?
他のクランの手前もあるだろうが……。
明らかに、異常すぎる厚遇だ。
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