第36話 鉱石はまだあるかもしれない、ヨシッ!

 ――ダンジョンの3階層


 安全とされているエリアで、野営の準備が始まった。


 一番良い場所は、『黄金の騎士団』の本陣に。

 その周りで、いくつも天幕が張られる。


 竈や、簡単な炊事場。


 手慣れた様子で、さすが大手と言いたくなる場面だ。



「お前が、ジンか? 団長のご指名だ。この階層の鉱石をとるから、ちょっと来い!」


 そちらを見れば、名前も知らない、モブ団員の男。


 ずいぶんと偉そうに吠えてくれたから、軽く威圧してやる。


 傘下の下っ端と思っていたようで、そいつは冷や汗を流しつつ、後ずさった。


「口の利き方を勉強してから、出直せ。三下……」


 団長の杠葉ゆずりはも、同じように、モブが耐えられないほどの威圧で加わる。


「貴様、名前は?」


「お、お前には――」

「ジンは、『叡智えいちの泉』にいる。団長の私に断りもなく、ずいぶんと偉いのだな? しかも、傘下とはいえ対等なクランを相手に……。それが『黄金の騎士団』のやり口か?」


 わざと大声で話す杠葉。


 ここは協力しているクランがいる場所で、周りで野営をしている連中が聞いている。

 どいつも、次は我が身で、非難する目つきだ。


 それに気づいた男は慌てるも、時すでに遅し。


 この場を支配した杠葉は、指示を出す。


衣緒里いおり。お前も、ジンについていけ! 1人で行かせたら、リンチもあり得る」


「分かりました」


 楚々とした衣緒里は両肩に鎖を巻き付け、すぐに立ち上がった。


 杠葉は、ホッとしている男に引導を渡す。


「貴様の顔は覚えたぞ? あとでロワイドに言っておくから、覚悟しておけ……」


 真っ青になったモブは、ガタガタと震えながら、すぐに謝罪する。


「も、申し訳ありません! それだけは――」

 

 頬をかすった何かで、モブの顔から一筋の血が流れた。


「え?」


「今すぐに立ち去れ。さもなければ、貴様を殺す! 二度と、私の前に顔を出すなよ?」


 その脅しで、モブは、ひいいいっ! と声を上げながら、駆け出した。


 地面の凹凸でこけながら、逃げていく。


 その無様な姿に、クスクスと、誰かの笑い声。



 ――鉱石の採掘場


 3階層で、鉱脈が通っている場所らしい。


『黄金の騎士団』の入団テストで見かけた、オーク族のジャンニだったか?

 こいつが、採取のリーダーらしい。


 巨体で立ったまま、腕を組んでいた。


 こちらを睨みながら、ドスの利いた声で脅してくる。


「俺のとこの奴を可愛がってくれたそうだな?」


「用件はそれだけか? じゃ、帰るぜ……。俺は、そちらのクランに協力しているだけで、あんたの部下じゃない。因縁をつけたければ、他を当たれ」


 バカバカしいので、すぐに背中を向けた。


 衣緒里は両手で鎖を投げられるよう、ジャンニたちを見たまま。


 舌打ちしたジャンニが、言い直す。


「鉱石の採取だ! とっとと、始め――」

「ジャ、ジャンニさん! すでに、誰かが採掘した後です!!」


 目を見張った奴は、その場で振り返った。


「そんな訳、ないだろうが!?」


 事前にごっそりと、持って行ったからな。


 それが、あるんだよ……。


 バカ豚?



 現場を確認したジャンニは、俺のところへ戻ってきて胸倉をつかもうとするが、身体強化をした片手でいなしつつ、躱す。


「次は、こちらも反撃するぞ? お前の口は飾りか?」


 魔法の準備をしながら圧を込めれば、ジャンニが話し出す。


「ねえんだよ! ここの鉱石が!! てめえ、何かやった――」


「知らん! 帰るぞ、衣緒里」

「はい」


 付き合っていられず、連れに声をかけて、2人で先に戻った。


 怒り狂ったジャンニだが、背中から襲い掛かったり、投石したりはせず。


 攻撃してくれれば、正当防衛でやれたんだが……。


 俺1人なら、目立たない部位を狙い、集団リンチをしただろう。

 だけど、ロワイドのお気に入りである衣緒里には手を出せないってか?


 女の声で助けを呼ばれたら、現場を目撃されるか、それでなくても面倒だ。



 ダンジョンの中では、何があっても自己責任。

 念のために、天幕の周りに結界を張って、他からの攻撃や侵入を防いだ。


 けれど、他のクランの目もあってか、何事もなく出発。


「では、先行してくれ! 荷物係は、合図をするまで待機してくれ!」


 次は、5階層で同じイベントだな?


 そちらも、俺が鉱石を丸ごと回収しておいたから……。

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