「黄金の騎士団」を出し抜こう!

第34話 小規模で出し抜くにはこの手しかない

『黄金の騎士団』の本拠地。


 いつも上から愚民どもを見下ろしそうな執務室に、団長のロワイド・クローを筆頭に、主だった幹部が集合。


「――というわけで、ダンジョン攻略の準備だ! 今回は、『叡智えいちの泉』にも参加してもらうが、全体に大きな変更はない。もっとも、彼らの秘密である鉱石の採掘については、ぜひ実行してもらう!」


 オーク族のジャンニが、茶化す。


「ムダ飯食いが、金の卵を産む雌鶏になるってか?」


 ドワーフの髭面、カリュプスが、たしなめる。


「だとすれば、お前のような態度を改めなければ、足をすくわれるぞ? 価値が高まれば、横から奪いたがる奴が五万と出てくる。今はあくまで、対等な関係じゃ!」


「まあ、そーだろうよ……。あいつらに『団長の女』になってもらうのが、一番手っ取り早いんだがな? 現状でウチの女どもに、『嫉妬するな!』と言ったところで、逆効果になっちまう」


 ため息を吐いたカリュプスは、ちらりと、ロワイドのほうを見た。


「そのためにも、今回の遠征は、ぜひ成功させねばな?」


「ああ、その通りだ……」


 苛立たしげに貧乏ゆすりをしている、ロワイド。


 それを見たカリュプスとジャンニは、肩をすくめた。



 気を取り直したロワイドは、事務スタッフを束ねている女の幹部に問う。


「遠征の準備は?」


「物資と関係各位への通達は、順調です。ただ……」


 言い淀んだ女に、ロワイドが続ける。


「収支を黒にするのは、厳しいか! 大所帯で、他のクランも引率するからな」


「はい。残念ながら……。大勢で潜るため、進軍スピードが遅く、黒字になる水準はだいぶ上です」


 申し訳なさそうな声音に、ロワイドが気遣う。


「いや、君の責任ではないよ! 今回は、『叡智の泉』のジン君がいるからね! 仕方ない……。彼に頑張ってもらい、採取した鉱石を全て提出させよう。それで、過去の清算とする! あとは、モンスターを倒したあとの魔石で何とかなるか? 各フロアーのボスからのドロップもあれば、余裕で黒字だろう?」


 楽観的な見通しに、他の全員が笑った。


「だと、いいのだが……」

「今回は、あの生意気な奴に、泥をかぶってもらうか!」



 ◇



「遠征か……」


 俺の独白に、周りにいる女たちが同意する。


「そうだ」

「いよいよ、ですね!」

「参加したくないのですけど……」


 三者三様で、返事。


『叡智の泉』の本拠地は、図書館のような空間。


 他の利用者はおらず、読書や勉強もできるクラシックな長机と椅子で、それぞれが座っている。


杠葉ゆずりは! 迷宮都市ブレニッケから出ていくのは、まだ無理か?」


「愚問だな……。冒険者ギルドでクランの解散を認めさせるには、金と時間がいる。それに、『黄金の騎士団』のロワイドが黙っていない! 奴のメンツがかかっている遠征の前となれば、マークもきついだろう」


 立ち上がった望乃ののは、壁に向かって、シュシュッと左右の拳を振り抜く。


「私が! あいつらを叩きのめします!!」


 子供のような行動に、場が和んだ。


 考えた俺は、杠葉に尋ねる。


「迷宮都市ブレニッケの領主には、絶対的な権限があるんだよな?」


「ああ、そうだ……。何を考えている、ジン?」


 胡乱気うろんげな目つきに、慌てて言う。


「まだ話せるほどでは……。近いうちに、ダンジョンに1人で潜る――」

「望乃も行きます!」


衣緒里いおり……。こいつを止めておいてくれ」


「分かりました」


 何か考えがあると察したようで、衣緒里はあっさりと応じた。


 そして、望乃はむくれた。



 ◇



「ん? 今、誰かが通ったか?」

「気のせいだろ……」


 隠ぺいの魔法を付与したフード付きのコートを身にまとい、ダンジョンの中へ。



 魔法で空間を貫くようにモンスターをえぐり、魔石に変わったら、オートで異空間に収納していく。


 倒す。


 倒す。


 巨大なボスっぽい奴も、四方からの空間をえぐることで、バラバラに……。


 気づけば、深いところで、襲ってきたモンスターを倒したところ。


「そろそろ、帰るか……」



 ――地上


 久々に日の光を浴びて、新鮮な空気を吸う。


(問題は、この魔石と鉱石の換金だな……)


 冒険者ギルドとは、鉱石の出所でトラブって、お抱えの鑑定士1人をクビにさせた。

 後ろ暗い話があれば、その意趣返しで、嬉々として俺を叩くだろう。


 仮に嫌がらせがなくても、俺が換金したことはロワイド・クロー達に筒抜けだ。


「じゃ、あそこに行くか!」



 ――ペルティエ子爵の館


 急な訪問だったが、控えの間で紅茶と菓子を出された。


 しばらく待っていたら、執事が1人。


「お嬢さまが、お会いになります。どうぞ、こちらへ……」

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