第14話 逆転していく兄弟の評価

 ロワイド・クローは、考えるべき項目を述べていく。


「どうやって、鉱石を採掘したのか? 問題は、そこだ……。『叡智えいちの泉』の3人に、その技術はないはずだ。ゆえに、ジン君がやったと考えよう!  他のクランや商会を調べたが、誰からも『奪われた』『売却した』の知らせがない。彼が僕たちを出し抜けるとは思えないから、これは事実だ……。ゆえに、『ダンジョン内で採掘した』と考えざるを得ない」


 女の幹部が、それに異議を唱える。


「ダンジョンにいたのは、ジンと同じ『叡智の泉』にいる望乃のの衣緒里いおりだけ……。しかも、採掘の道具を持っておらず、服装も汚れていなかったとか。鑑定に出した鉱石も、まるで平面のように綺麗なカットだったそうで……」


「鑑定人が疑ったのも、仕方ない状況……。許さないけどね? 僕たち、冒険者の利権に対して、ギルドお抱えの職員が土足で踏み込んだ! やれやれ。ジン君がいると、退屈しない」



 ◇



 地面に、ロングソードが突き刺さった。


「それまで! ……ランストック伯爵! ご子息はいささか、調子が悪いようですな? 今日の入団テストは、これぐらいで」


 立会人の騎士団長は、傷だらけで倒れ伏すギュンターを一瞥いちべつした後で、ジンの父親であったパウルを見る。


 意気揚々と、近衛騎士団のテストを受けさせたが、ご覧の有様だ。


 不甲斐ない息子を睨むも、今は騎士団長と話すしかない。


「これは、お見苦しいところを……。そうですな! 今日はもう帰りますので」



 ――高級宿


 貴族か裕福な商人だけが泊まれる、豪華絢爛な部屋で、パウルが荒れた。


「何をやっているんだ、お前は!? 私に、あれほどの恥をかかせおって!!」


 顔を伏せたままのギュンターは、謝罪するしかない。


「申し訳ございません、父上……」


 ひとしきり罵倒した後で、パウルは、ようやく落ち着いた。


 乱暴に酒を飲みつつ、次期当主であるギュンターに告げる。


「今回の件で、お前は大きなハンディを背負った。そう考えろ……。あの入団テストに合格しない限り、家督を継がせるわけにはいかない。ランストック伯爵家が、未来永劫、ずっと舐められる! それにしても、どうした? いつもの、お前らしくもない」


「それが……。普段より体が重く、鈍かったように思います」


 1つの基準である、大岩を割り、複数の騎士を相手に無双していた我が子とは思えない。

 先ほどの模擬戦では良いところがないまま、一蹴されたのだ。


 まさか、今までは義理の息子だったジンがずっと魔法でギュンターを強化していたとは、考えない。


 思案したパウルは、息子に宣告する。


「ギュンター? あの近衛騎士団にトライしても、『前に落とした奴か……』と色眼鏡で見られるだろう。騎士団長あたりに心づけを渡しても、逆効果だ。現状ではな? 他の騎士団にも、すぐ噂が回る」


「はい……」


 立ち上がったパウルは、窓際に歩いた後で、背中を向けたまま、説明する。


「迷宮都市ブレニッケに行け! 筋書きは、『自身の不甲斐なさを感じて、一から鍛え直すため』だ。他にはない修行を積んだとしてはくをつけねば、どこかの騎士団に入っても、後ろ指をさされるだけ」


 振り向いた後で、息子をたしなめる。


「そんな顔をするな……。私とて、こんな真似をしたくない。だが、全てはお前が招いたこと! あそこは力自慢が集まっていて、実績を作るにも、うってつけだ……。心配せずとも、ランストック伯爵家として現地のトップクランに面倒を見させるよう、手配する。しばらく頭を冷やしつつも、今回の失態をカバーしろ」


「は……」


 思ったように力が出ないギュンターは、手で震える膝を押さえながら、返事をした。


 当主の命令は、拒否できない。

 まして、貴族や騎士に醜態を目撃されては……。



 ――しばらく後


『黄金の騎士団』の本拠地。


 その執務室で、日光を背にしながら、役員机に向かっている美青年が微笑んだ。


「ようこそ、僕たちのクランへ! ここでは大手だけど、君はランストック伯爵家の次期当主だ。あまり緊張しなくてもいい……。伯爵から、我がクランへの支援と共に、『近衛騎士団のテストに文句なしの合格ができるよう、鍛えてくれ』と、聞いていてね。貴族の扱いはせず、下積みから始めてもらうが……構わないか?」


 ロワイド・クローがいる役員机に向かっているギュンターは、屈辱の極みだ。


 それでも、選択の余地がなく、必死に耐えた。


「はい……。よろしく、お願いします……」

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