第13話 舐められたら終わりの稼業

 ――冒険者ギルド


 しげしげと眺めた鑑定人は、拡大鏡を置いた。


「あなた方が、これを入手した経緯を教えてください」


「ダンジョンで採掘した」


 溜息を吐いた鑑定人は、疑いの視線を隠さず、問い詰める。


「今のうちに、本当のことを言ったほうが良いですよ?」

「他から盗んだと?」


 はっきりと返したら、鑑定人は黙り込む。

 言質を取られたくないようだ。


 テーブルに出していた鉱石を回収する。


「仕事をする気がないのなら、退職したほうがいいぞ? このことは、上に苦情を言っておくし、他のクランとも情報共有をしておく。俺たちが『黄金の騎士団』の庇護下であることも、覚えておけ!」


「私は、そんなつもりでは! 少し待って――」


 無視して、立ち上がる。

 横に座っている、望乃のの衣緒里いおりも。


 ギャーギャーと喚く鑑定人を残して、注目していた受付員に声をかける。


「あの鑑定人に、「お前たちが盗んだ」と決めつけられた。ダンジョンに潜っている人間から、その成果をかすめとるのが、冒険者ギルドのやり口か!? 返事がなければ、『黄金の騎士団』にも話を通す!」


 ギクリとした受付員は、慌てて動き出した。


 遠巻きの冒険者たちも、他人事ではないため、聞き耳を立てている。


「あ、あの! こちらの部屋で――」

「今ここで、返事をしてくれ。書面でもな?」


 ギャラリーの冒険者たちも、胡乱うろんげな視線を向けたまま。


 幹部らしき男が出てきて、頭を下げたうえ、相場の2倍で買い取った。


 因縁をつけてきた鑑定人は、その場でクビにされた。

 冒険者の成果を横取りしようとした、の噂による闇討ちを恐れ、その日のうちに、迷宮都市ブレニッケから逃げていくことに……。




 ――レストラン


 中央エリアの綺麗な店。


 正装をした『叡智えいちの泉』の3人と、白いテーブルクロスがあるテーブルを囲む。


 俺は元貴族として、テーブルマナーがある。

 見た目は少女の3人も卒なく、ナイフとフォークを動かしている。


 ジト目になった、団長の杠葉ゆずりはが、俺に突っ込む。


「お前……。意外だと、思っていないか?」


「否定はしない」


 息を吐いた杠葉は、ナイフとフォークを置き、テーブルナプキンで口を拭いた後で、説明する。


「私たちは、奴の女……という扱いだ。それゆえ、こういった作法も講師に教えられた。むろん、食事会もな? くどいようだが、手は出されておらん。遠回しに誘われたが、3人とも断っている」


 奴とは、『黄金の騎士団』の団長、ロワイド・クローだ。


 価値を高めた女を侍らせて、周りにアピールか……。


 手を出さないのは、前に杠葉が言ったように、自分で女を抱けない男だから。

 事に及んで失敗するか、後から無理やりされた、と言わせないためでもある。


「格好つけた奴だ」


「そうだな……」

「嫌いです」

「あまり、顔を合わせたくはないですね」


 周りの耳を気にして、相手の名前は出さない。


 けれど、彼女たちは、ロワイドを嫌っているようだ。


 杠葉が、俺を見た。


「ジン? 今日は、派手にやったそうだな……。事情が事情だけに、当然の対応だったが。これで、冒険者ギルドの連中もお前を警戒するだろう」


「逆恨みされるか?」


「よく思わない人間は増えた……。そう考えろ! 望乃たちから事情を聞いた。鉱石を売れば儲かるが、他の採掘クランとぶつかるし、今後はどういう難癖をつけられるか不明だ。少なくとも、冒険者ギルドの買い取りには出すな! 口裏を合わせられたら、逆にめられるぞ? 全員グルになるとは言わんが」


 自分の料理を食べた俺は、同意する。


「分かった……。利権でガチガチのようだし、今回だけにするさ! 連中も大恥をかいて、仲間を1人失った。鉱石の売却を続ければ、悪質な嫌がらせで報復してくるだろうな?」


「何にせよ、久しぶりに、ここで食べました!」

「前より味が分かって、落ち着きます」


 望乃と衣緒里の感想で、場が和んだ。


 次の料理が運ばれてきたことで、明るい話題に切り替える。



 ◇



 冒険者ギルドの事件を知ったロワイド・クローは、自分の考えを述べる。


「ジン君には、困ったものだ……。ともあれ、冒険者の成果を奪うことは看過できない。ウチの名前を出しても、特に問題ない」


 カリュプスが、頷いた。


「舐められたら、仕舞いだからな! 今回ばかりは、致し方あるまい。傘下にしているウチの看板にも傷がつく」


 他の面々からも、異論は出ない。


 それを確認したロワイドが、話を変える。


「ジン君が隠し玉を持っているのか、あるいは、『叡智の泉』の切り札か……。いずれにせよ、僕らのために役立たせる。彼らがダンジョンに潜れるのなら、ストレートに動かせばいい!」


「傘下のクランとして、上納させる気か? 今までが寄生じゃったし――」

「そうじゃないよ、カリュプス。小銭をかき集める真似はしない……。彼らに、僕と同じ古代魔法の恩恵があるのなら、もっと大きなことに使うべきだ」


 ――そろそろ、ダンジョン遠征の時期だ


「したがって、『叡智の泉』にも協力を要請する! 前線での戦闘はさせないが、偵察などの仕事をやってもらう。……拒否するようなら、それを理由に、彼女たちを潰す!」


 巨体ながら、器用に肩をすくめたジャンニが、同意する。


「ああ……。いいんじゃないか、それで? 極限状況に置かれれば、嫌でも本音が出るし、手の内を明かさざるを得ないってもんだ!」

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