第12話 金になるのか? じゃあ回収だ!

 ――ダンジョン1階層


 この迷宮都市ブレニッケで、ダンジョンと言えば、ここだ。


 中央エリアで冒険者ギルドのすぐ傍にある整備された入口から続く、広大な空間。


 街から見える部分ゆえ、しばらくは大理石のような材料で美しく整備されている。

 だが、表の光が入らない部分に立ち入れば、ゴツゴツとした岩肌が剥き出し。


 どういう原理か、ぼんやりと光っていて、松明がいらない。


 別の石で四角に整えられ、壁画や彫刻があり、松明による灯りを通り抜けていく入口エリアとは、雰囲気が大きく違う。


 俺たちは、他の冒険者グループと距離を空けながら、固まって歩く。


 薄暗くなったものの、じきに目が慣れる。


『とりあえず、他の連中がいない場所へ行くぞ?』


『フフ……。意味深な言葉♪』

『油断すると、死にますよ、望乃のの?』


 反響する言葉は、地上とは違う感じだ。



 エントランスでは、揉め事を起こさない。


 これはダンジョンの不文律で、どれだけ仲が悪いクラン同士でも距離を置き、喧嘩を売らないのだ。


 ダンジョンに潜るのは、命懸け。

 地上とは違ったモンスターが湧き、どんどん襲ってくる。


 その理由は、不明。


 けれど、内部だけにある鉱脈、湖などの素材や、倒したモンスターが変わった魔石によって、莫大ばくだいな収入を得られるのだ。


 奥に潜るほど、強いモンスターや、貴重な素材がある。


 そういう仕組みであるのか、浅層のアイテムは大勢が持ち込むから、値下がりしているのかは、何とも言えない。



 他の冒険者グループと離れて、人けがない、ホールのような空間に辿り着いた。


「たあぁああっ!」


 黒の着物を着た望乃が振り回した大槌おおづちが、迷い込んだゴブリンを潰しながら、吹き飛ばした。


 彼女と同じぐらいの身長をした緑色の亜人は握っていたショートソードを持ったままダンジョンの内壁に叩きつけられ、グシャッと潰れる。

 落ちたショートソードが、先に地面へ落ちて、ガランと音を立てた。


 内部から破裂したような惨状だったが、すぐに片手で握れるサイズの魔石に変わった。


 と思ったら、別の場所から、冷気が伝わってくる。


 そちらを見れば、青の着物の衣緒里いおりが金属の長いくさりを握ったまま、その尖った重りが付いた先端を別のゴブリンに巻き付けていた。


 鎖によって伝播でんぱしているようにパキパキと凍りつき、あっと言う間に、氷像に……。


 すかさず、もう1つの鎖をブンッと振れば、そちらはまっすぐに突き刺さり、中身ごとバラバラと崩れ落ちていく。


 そして、魔石に変わった。



「おっと……」


 2人に見惚れていたら、別のゴブリンが数匹、斬りつけてきた。


 魔法によるサーチは常時発動していて、空間は把握済み。


 後ろから、足音を忍ばせ、無言で攻撃してことは評価するが――


 振り向きもせず、片足をズラしつつ、体を半回転。

 その途中で、突っ込んできた1匹の首を片腕で押さえて、そのまま後ろへ引き倒す。

 いわゆる、首投げだ。


 受け身もなく、硬い地面に叩きつけられた後頭部は、割れる音を響かせた。

 短い悲鳴を上げたゴブリンは、あっさりと絶命。


 それを見届けることなく、動きを止めたゴブリンとすれ違いつつ、手刀で相手の首をなぞるように……。


 手刀の延長線上に空間切断をしたことでゴブリンの首が落ち、派手に血が噴き出た。

 緑色だ。


 魔石に変わった2匹を拾いつつ、望乃と衣緒里からの視線を感じる。


「何だ?」


「はあっ……。まあ、ジンだからと、分かっていますけどね?」

「今の体術とスピードは、高レベル並み。完全にレベル詐欺です」


 立ち上がった俺は、2人に構わず、周りを見た。


「そういえば、ダンジョンには鉱脈もあるんだよな?」


「ええ!」

「主要な場所は、大手のクランが押さえていて、ずっと見張りがいますけど……」


 ホールの内壁まで歩き、何気なく触れる。


 ペタペタと触っていけば、魔法によるサーチで違和感があった場所で、手触りが変わった。


「ここ、おかしくないか?」


 近寄ってきた2人も、同じように触る。


「んー?」

「たぶん……鉱脈ですね。かなり小さいし、人が通らない場所だから、未発見だったのでしょう」


 衣緒里が言うには、鉱脈の採掘は、専門の器具と、長時間の作業が必要。


「ダンジョンの外まで搬出すれば、護衛のコストもかかります。外では、保管や加工、その先の販売も……。深部から上まで通じている運搬エレベーターの権利を持つ、専門クランの領分です。採掘と運搬における護衛は、腕が立つクランに委託することが一般的です」


「へえ……。じゃあ、ここから鉱石を削り出すことは無理だと?」


 残念という表情で、衣緒里が頷いた。


「はい。……鉱石を削り出せるのは、専用のピッケルです。先が尖った作業用。それに、ガンガンと周囲に響きます。私たちでは、寄ってくるモンスターに対応できず、自滅するだけ。少量でも高く売れるから、資金調達で回収したいものの……」



 魔法のサーチで立体的に把握した鉱石の塊に対し、先ほどの空間切断をする。


 ゴッ ゴッ ガガッと、鈍い音が響いた後で、異空間へのストレージへ丸ごと回収。


 見えている部分から、一定のエリアが消失した。


「わっ!」

「……まさか、今のは?」


 視線を向けてきた衣緒里に、首肯した。


「誰が聞いていても、おかしくない。……そろそろ帰るか」

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