第11話 文字通りに腕力だけがモノを言う
「その着物には、防護の付与がある……。従来では即死か重体になる攻撃でも、ある程度は耐えられる。ただし、過信はするな!」
俺の説明で、
ポカンとした様子だ。
「え?」
「そんな高価なものを……」
2人が『
杠葉は、拠点である図書館の中で椅子に座ったまま、ため息を吐いた。
「そうだ! 総合的な魔法付与がされている……。それを着ていて死ぬことは、あまりないだろう」
「えっと……」
「いくらですか?」
長テーブルに肘をついた杠葉が、あっさりと告げる。
「いいんじゃないか? くれると言うのだから、ありがたく受け取れ! まさか、お前に、魔法付与のスキルがあったとはな……。この才能だけで、大手の生産クランか、大商会の支部に雇われるだろう。いや、王家か高位貴族のお抱えだな? いつでも転職できる」
「団長!」
ぷくーっと膨れた望乃が、すぐに叫んだ。
「別に、ここを抜ける気はないよ?」
安心した望乃だが、杠葉は浮かない顔だ。
「クランの兼任は、禁止されておらん……。ダンジョンに潜るクラン同士ではあり得ないが、素材を加工するクランや流通を牛耳っている商会との兼任は、前例がある! これだけの腕があれば、勧誘されるのは時間の問題だ。今から、考えておく必要があるんだぞ、望乃?」
代わりに、俺が質問する。
「そいつらの勧誘を断ったら、やっぱり嫌がらせか?」
「ああ、そうだ! 連中は弱いため、陰険な手段で圧力をかけてくる……。たとえば、傘下の奴らに物を売らせない、買い取らない。取引先を通じて悪い
嘆息した俺は、確認する。
「行きつけの店があったら、そこに卸さない、金を融通しないで、潰すわけか? 自分たちが動かせる人間にも協力させて」
首肯した杠葉は、うんざりした様子で同意する。
「まあな……。私たちは、まだ『黄金の騎士団』の庇護下。すぐにどうこうとは、ならんだろう……。しかし、他の要素がなければ、だ!」
「俺のエンチャント技能は、それほど貴重か……。けれど、望乃たちが自力でダンジョンに潜り、街中でも身を守ることは――」
「それは否定していないぞ? 前にも言ったが、遅かれ早かれ、『黄金の騎士団』と直接的な対決になる。問題は、他の奴らと揉めて、そこに介入される事態だ!」
杠葉の発言に、応じる。
「タッグを組まれたら、完全に詰むな……。ダンジョンで稼ぎつつ、早めに引越し先を確保しよう」
◇
冒険者ギルドに立ち寄り、ダンジョンに入ることを申請。
受付のカウンターで、お役所らしい会話をした後で、自分たちのレベルカードを見る。
古代魔法のアイテムらしく、偽造ができず、鑑定した結果はリアルタイムで更新される。
ただし、冒険者ギルドだけにある水晶球に触れた時にだ。
要するに、自分の実力を証明するため、使えるものの、逆に更新をサボって、相手を油断させる小道具にもなる。
「ずっと忘れていて……というパターン、多いのか?」
腕を組んだ望乃が、答える。
「んー。まあ、ないか? と言われれば、あるんでしょうけど……。それをやるメリットは、ほとんどないと思いますよ? だって、自分のクランの中で、少しでも強いほうが、立場が良くなりますから! あと、ダンジョンで生死をかけるのに、正しい情報でなかったら、その間に発生した被害を押しつけられます」
「ないか」
「ないですね! 偽造なら、話は別ですけど……」
俺は、自分のカードを見た。
レベル1では不自然すぎるため、ある程度は強くした結果。
名前:ジン
種族:ヒューマン
Lv:10
称号:なし
スキル:なし
「私のも、見ますか?」
名前:望乃
種族:小人
Lv:1
称号:なし
スキル:古代語の読解、鑑定
「俺たち、パッとしないな?」
「ですね!」
衣緒里
種族:小人
Lv:1
称号:なし
スキル:古代語の読解、鑑定
「私たちは、力で勝負できない種族ですから……」
自分のカードを出した衣緒里も、溜息を吐いた。
彼女たちを慰めるように、励ます。
「そのために、用意したんだ……。さっそく、試してみよう! しかし、このレベル判定は、けっこう適当だな?」
横を歩いている望乃は、軽く両手を上げた。
小馬鹿にするように、説明する。
「それは、そうです! この世界では、力こそ全て!! だから、腕力がない人間や、身長が低くて体格に恵まれない人間は、無条件で見下されます!」
ブンブンと、手を振る望乃。
それを見た俺は、反対側にいる衣緒里を見た。
「冒険者ギルドの判定は、あくまで参考……。ですが、いつの間にか、この基準がスタンダードになり、評価されない人間は総じて不遇をかこっています。……脳筋だけが正義というわけですよ」
最後は、小声になった。
長く息を吐いたことから、衣緒里にも思うところがあるようだ。
「賢さがない時点で、お察しだな?」
俺のツッコミに、2人とも力強く頷いた。
ダンジョンの入口が見えてきて、他の冒険者も増えてきた。
俺たちは、この話題を止める。
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