第8話 VS クロー団長

「バッカだよねー!」

「団長に喧嘩を売った時点で、辞退すればいいのに……」


 わざとらしく、女の団員が言った。


 まだ待機している俺たちに聞かせるつもりかは、微妙なところ。


 ロワイド・クローは、見回した後で告げる。


「次だ!」



 一部の入団希望者は、辞退した。


 理由は、例の女たちが、今回は採用する気がない、と話していたからだ。


(ふざけた話だ……。「いつでも新人を採用する」という見栄のために、俺たちをなぶっているのか)


 これもテストのうち、と言うには、おごりすぎ。


 ただ断っては、示しがつかない。

 けれど、来た奴らを全て養うのも、非現実的だ。


 それは分かるが……。



「次! ジン君!!」


 立ち上がった俺は、動きやすい革鎧に頭を通して、胴体だけ保護。

 左腰にスモールソードをさやごと吊るし、左腕に小さな盾をつける。


 体の調子を確かめながら、コロシアムの真ん中へ歩み出た。


「頑張れー! ジンー!」


 望乃ののの声だ。

 これだけ騒がしい場でも、よく響く。


 出会った当初は敬語だったが、今ではフレンドリーな口調。


 そちらを見たら、望乃はブンブンと手を振った。

 可愛いものだ。



「さて……。こちらも時間がなくてね? すぐに始めたいのだが……」


 ロワイドの呼びかけで、そちらを見た。


 短槍を持っている。

 防具は、俺のように軽装だ。


 俺の疑問に答えるためか、苦笑しながら、発言する。


「御覧の通りだ……。君の相手は、僕が務めよう」


 ギャラリーが、静まり返った。



 ちょうどいい。


 肉体的にはレベル10が限界なのに今はレベル60ある、こいつの手の内を探っておくか……。



 無言のまま、右手をつかに添えて、ゆっくりと剣を抜いた。


 片手用だが、両手でも握れる。



 相手の利き腕が不明なため、相手の側面へ回るように、摺り足でズレていく。


 いっぽう、ロワイドも槍の穂先をこちらへ向け、両手で握ったまま、俺を正面に捉え続ける。



「つあああっ!」


 ロワイドが、裂帛の気合いを入れた。


 と思ったら、一瞬で間合いに飛び込みつつ、穂先で突いてくる。



 それを避けるも、しなるように、横へぐロワイド。


(速いな?)


 空気が悲鳴を上げた。


 姿勢を低くしながら前へ出て、同時に右手だけの突き。



 ロワイドは片足を後ろへずらしつつ、半身で避けて、反対の石突きで牽制けんせい


 握りを変えて、今度は穂先がないほうでスモールソードの切っ先を弾き飛ばす。


 こちらの握る手が痺れた。


(……思っていたよりも、力がある)


 無理にクロスレンジを維持せず、刃物がないほうの突きを避けつつ、左右へのバックステップを繰り返す。


 距離が空いたことで、お互いに仕切り直し。



(ん?)


 妙な感触を覚えたことで、警戒する。


 ロワイドの体……というか、精神体が光り出した。


 同時に、相手のステータス更新。


 ――脚部の強化


 ――心肺機能と、必要なだけの腕力、全体のバランス


(こいつ!?)


 身体強化。

 ロワイドは魔法を使えるようだ。


 自覚しているのか、あるいは、別の補助か?



 ロワイドの姿が、一瞬で消えた。

 弧を描くように飛びあがりつつ、槍を上から叩きつける。


 けれど、派手に土煙が舞い上がり、轟音と揺れが響く頃に、俺の姿はない。


 手応えがなかったロワイドは、すぐに槍を持ち上げつつ、両手で体を守るように回転させつつ、移動する。


 その間に、捉え直すつもりだろうが――


 踏み込んだ俺のスモールソードが、奴の腹をめがけて、突き進む。


「っ!!」


 息を吐いたロワイドは、体勢を崩しつつ、槍の柄で受け流した。


 その勢いを利用して、攻撃されても防御できるように槍を動かす。


 立ち止まらず、氷上を踊るように動きつつ、上下左右から槍を繰り出してきた。



 左からの薙ぎ。


 下への突きと見せて、上を狙う。


 高飛びで頭上を飛び越えた後に、俺の背中への突き。



 空中や壁、地面を跳ねまわりながら、槍術として見事な連撃だ。

 槍までも一部にした、独自の戦術。


 閃光のような動きでコロシアムを駆け巡るロワイドは、同じ身体強化をした俺にクリーンヒットを与えられない。


 興奮と疲労のせいか、イラついた表情を隠しきれず。


(これ以上は、付き合いきれん……。今までの様子から、仮に倒せても、逆恨みか、この場で全員が襲いかかってくる)


 別に全員を吹っ飛ばしてもいいが、それは面倒だ。

 逆恨みで、何をしてくるやら。


 焦ってきたロワイドが槍を叩きつけた瞬間に、衝撃波の魔法を使い、自分のスモールソードと盾をそれぞれ破壊した。


 魔法ではなく、奴の攻撃によるものと錯覚させられるだろう。


 ロワイドは手応えのなさで顔をしかめたが、この場で団員に恨まれなければ、何とでもなる……。



 バラバラと地面に落ちていく、俺の武具。


 事故を装い、追撃してくるか? と思ったが、同じ身体強化をできることで、警戒したようだ。


 俺を見たまま、低く後ろへ飛んだ後で、槍の穂先を下げた。



 あまりにハイスピードで行われ、ギャラリーは言葉もない。


 感嘆のあまり、息を吐く音。



「それでは、戦えないだろう? まあ、僕の勝ちだが……。これほど、ついてこられるとは思ってなかったよ! おめでとう、文句なしの合格だ!! 今後は、僕たちと一緒に頑張っていこう!」


 ロワイドは、近づいてきた団員に槍を預けた後で、片手を差し出した。


 しかし、俺は、あっさりと告げる。


「まだ、入るとは決めていない。別のクランを見てからでも構わないか?」

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