第6話 上から見下す王子様と無頼漢

 内心で嘆息したロワイド・クローは、最後の1人に話しかける。


衣緒里いおりは、彼をどう思った?」


 やはり小人族で、長い銀髪をなびかせ、青紫の瞳だ。

 望乃よりも、年上の雰囲気。


 見た目通りのお姉さん系ボイスで、静かに言う。


「私は見ておりません。外出していましたので……」


「そうか! コホン……まあ、今回のような事件もあるわけだし。そろそろ、ウチに正式な所属をしてもいいんじゃないか? 別に、君たちの悲願や活動を妨げる気は全くないのだから……」


 しかし、衣緒里は何も答えない。


 代わりに、『叡智えいちの泉』の団長である杠葉ゆずりはが、口を開いた。


「現状でいい……。それとも、応じなければ、いよいよ援助を打ち切るのか?」

「君は、僕がそんな狭量に見えるの? 大丈夫だよ! 今まで通りだ」


 慌てて答えたロワイドは、思わず溜息を吐きたくなった。


 僕がどれだけ、お前たちに投資したと思っている!?

 若く美しい小人族の女で、魔法に詳しく、栄光あるナインガルドを復活させるためだ。


 『黄金の騎士団』でも、彼女たちの待遇に不満が高まりつつある。

 大所帯ゆえ出費が大きく、『ブレニッケの最大手』という看板を守るために見栄も欠かせない。


 本来なら絶対にあり得ない、チンピラによる望乃ののへの詰め寄り。

 フリーの新人だとしても、ここで『黄金の騎士団』を敵に回せば、命はない。

 現に、そいつらはバレないように始末したのだ。


 まさか……内部で手引きした奴がいるのか?


 笑顔のままで冷や汗を流す、ロワイド。



 傍から見れば、金髪碧眼の青年と、少女たちがいる光景だ。

 けれど、実態としては、その王子さまが執着している。


 ふと下を見れば、ブレニッケに来たばかりで、自分に、グリドベアを一撃で倒したと豪語していた戦士2人が、血だらけで倒れ伏している光景を目にする。


 そんな事だろうと思った……。


 商会の紹介状は、金を積むかコネがあれば、簡単に手に入る。

 ダンジョンの中で、そういう小賢しい真似は全く通じないのだ。


 本命である望乃を助けた男を見れば、何と素手のままで叩きのめしていた。


 刃を掻い潜り、あるいは腕で逸らしつつ、足元を崩し、急所に打撃を叩き込む。

 それでいながら、最小限の動きだ。


 今も、突っ込んできた相手の攻撃をかわしつつ、その背中を叩き、姿勢を崩した。


 スピードの緩急が素晴らしく、周りはお互いに邪魔するだけで、連携をとれず。

 即席の集まりで、まず、こいつを倒す! としても、誤っての攻撃により同士討ちへ……。



 ロワイドが片手を上げたら、控えている団員の1人が頷いた。


 鐘が鳴らされ、グラウンドに立っている者たちが注目する。



 バルコニーの席で立ち上がったロワイドは、前に出ながら、叫ぶ。


「勇者たちよ! 諸君の力は十分に示された! まだ立っている者は全員、二次試験に参加してくれ! ……ささやかだが、今日はゲスト用の部屋に泊まってもらう。明日の戦いに備えて、英気を養うように」


 眼下にいる連中は、ジンを含めて、動きを止めた。


 他の奴らを警戒しつつも、握っているソードを下ろし、付着した血などを処理し始める。



『黄金の騎士団』に招かれた、一次試験を突破した勇者たち。


 団員たちは、まだ冷たい視線。

 けれど、裏方の団員は忙しく動いている……。



 ◇



「本当に、お強いですね!」

「ハハハ……。やっぱり、最大手のクランでやっていこうと考えたら、これぐらいは」


「私、まだ恋人がいなくて……」

「お、おお! 明日の二次試験を突破したら――」



 広い食堂では、若く美しい女が、それぞれに張り付いた。


 よく見れば、他の団員の姿はなく、ガランと静まり返っている。



 その不自然さで、首を傾げた。


 隣に座っている美女が、微笑む。


「私じゃ、ご不満?」


「美人と一緒で不満だったら、そいつは男色だろう……。で、この状況は何だ? まさか、昼の集団戦ごときで英雄と見なしたわけじゃないよな?」


 これまた、迷宮都市ブレニッケに到着したばかりの無頼漢にはもったいない、王侯貴族が食べそうな料理がズラリと並んでいる。


 ちなみに、これで1人分だ。


 いわゆる、コース料理だな。

 邪魔をしないためか、一度に並べているけど……。


 他の奴らとは長テーブルが別で、他の部屋にいるのと変わらないレベル。


 女は、その巨乳を示すように、下で両腕を組んだ。


「つれないわねー? まあ、いいけど……。ご明察の通り、これも試験の一部よ! ご馳走、女を与えて、良い気分にさせるの」


 チラリと横目で見てきたから、続きを言ってやる。


「お前はここの団員ではなく、そういう商売をしているんだな? 好意的だが、無理に引っ張り込むほどのアピールじゃない」


 笑顔のままの女。

 否定せず。


 それを見た俺は、独り言のように話し続ける。


「昼の集団戦で試した……。これだけでは、明日の二次試験で落とした場合、ここを逆恨みするかもしれない。それを防ぐために、あめをくれてやるわけだ。別に、『誘ってきた女を抱いたから不合格』という、バカな決まりはないだろ? それは、ダンジョンに潜って命のやり取りをする冒険者に求めることじゃない」


 おざなりで、パチパチと拍手した女は、ようやく説明する。


「正解……。私が知っている話では、そんな感じよ? 雇われて何だけど、こんな稼業で品行方正だなんて、気が狂っているもの! 逆に、『これだけ贅沢できるんだ!』と実感させたほうが、入れるにせよ、断るにせよ、プラスに働くわ! それで、気は変わった? あなた、好みだから、サービスするけど……。そう、残念」


 自分で酒を注いで、グイッと飲んだ女は、さり気なく他の席を見たあとで呟く。


「他に事情や狙いがあるかもしれないから……。賢明かもね?」

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