第5話 上の連中もぶっ倒していいかな?

「ロワイド・クローも、腕力だけがモノを言う世界に危機感を持っている。奴も細身で、純粋なスペックで戦えば、レベル10がせいぜいだ! 自分は良くても、子供や孫の代で失墜しては台無し。だから、魔法の力に頼りたい」


 俺は、説明した杠葉ゆずりはに言う。


「まとめると、『最大手の団長ロワイドの女がいるクランで、関わるだけで不興を買う。男が入団するなど、もっての外』というわけか?」


 首肯した杠葉は、最後に問いかける。


「すぐに理解してくれて、助かったよ……。それで、望乃ののを助けた礼だが、何を希望する?」




 ――数日後


 俺は、『黄金の騎士団』の本拠地にいた。


 冒険者ギルドがある、中央エリア。

 その一角に、高い塀で囲われた城のような建物がある。


 屋外で広い場所に集められた男どもは、入団希望者だ。


 城のバルコニーに現れた、担当者なのか、団員らしき男が、声を張り上げる。


「えー! お集まりいただいた皆様! ようこそ、『黄金の騎士団』へ! では、クロー団長にお言葉をいただきます!」


「僕が、団長のロワイド・クローだ! こうして会えて、嬉しく思うよ」


 その美青年が、上から見回した時に、俺をジッと見た気がした。

 またか……。


 奴は、何事もなかったように、話を続ける。


「さて……。できれば、ここに集まった勇気ある者を全て受け入れたいが……。残念ながら、団員を養い、育てていくのは大変でね? 広いように見えて居住スペースは限られているし、日々の食事も用意しなければいけない! とりあえず入れてダンジョンへ放り込み、ノルマを達成できない者は追い込むところもあるが……。僕は好きじゃない」


 ロワイドは、わざとらしく、首を横に振った。


 なるほど。

 演技くさい奴だ……。


 笑顔になったロワイドは、あっさりと告げる。


「だから、君たちでをしてくれ! しばらく後に、まだ立っていた者を二次試験へ進める。ただし、殺人は禁ずる。……始めっ!!」


「たあぁああっ!」

「死ねやあぁあっ!!」


 物騒な叫びと、剣戟の音が辺りに響き渡る。


『黄金の騎士団』のリーダーであるロワイドの宣言で、一次試験が始まったからだ。


 事前に何の説明もなく、いきなりの勝ち抜き戦。

 密集していたから、待ったなし。


 説明を聞いた後に決めようと思っていた愚か者は、オドオドしている間に、周りから殴られるか、斬りつけられ、地面に転がった。


 武装している者も、対応が遅れた順番で、切り替えの早い奴らに倒されていく……。



 ◇



 安全な城のバルコニーやグラウンドから離れた場所では、『黄金の騎士団』のメンバーが観戦中。


「おー! やってる、やってる……。バッカだねえ! 武具を身に着けていない奴がけっこう多いよ」

「ハハハ! まあ、言われなきゃ用意できない奴は、ウチにいらないから!」


「ダンジョン探索をしているクランの入団試験と言ったら、戦闘に決まっているだろうが……」

「いるんだよねえ、『大手だから安泰』と考える、ぶら下がり!」

「荷物持ちなら別だが、お荷物は御免だぜ……」


 屋外の一次試験は、いよいよ人数が絞られてきた。

 お互いに武器を構えての、数回では決着がつかない斬り合いへ……。


「有望株、いるかな?」

「それよりも、上のバルコニー! 『叡智えいちの泉』の3人が来ているって!」


 女性陣は、一斉に上を見た。


 角度的に全ては見えないが、聞き慣れない女の声が耳に届く。


「ケッ……。団長のお気に入りだからって、偉そうに……。何様のつもりだ」


 1人が小声で言えば、他の女たちも続く。


「これだけ優遇されているのに、団長の誘いに応じないって!」

「信じらんない……」

「でも、珍しいよね? あいつら、今まで入団試験に顔を出さなかったのに……」


 その指摘で、全員が黙り込む。


「まあ……。そろそろ、覚悟を決めたんじゃない? あたし達がケツを持って、仕事の斡旋までしてるんだ……。3人全員で腰を振って団長を喜ばすぐらいは、やってくれないと」


「だよねー!」

「あいつらもダンジョンに連れて行って、荷物持ちぐらい、させればいいんだ」


 ロワイド・クローに憧れている女たちは、特別扱いで汚れ仕事をしていない『叡智の泉』に辛らつだ。




 バルコニーの上は貴族のようにカーペットが敷かれて、同じく野外でも使える金属製のテーブルと椅子。

 入団試験の見学だから、どれもグラウンドを見下ろす配置だ。


 中央で豪華な椅子にいるロワイド・クローは、待望のゲストを迎えて、上機嫌だ。


「どうだい、杠葉? 君たちが世話になった彼は……」


 ヒューマンの半分ぐらいの杠葉は、ドレスで着飾っているものの、冷たい態度だ。


「どうも何も、望乃ののが助けられて、礼を述べただけ……。それは、お前が一番よく知っているだろう?」


 暗に、ずっと監視しているだろう? と告げた杠葉に、主役のロワイドは苦笑した。


「何を言っているのか、よく分からないが……。望乃が無事で、本当に良かったよ! 怪我はないか?」


「はい、大丈夫です」


 最低限の返事で、望乃は口を閉じた。


 ロワイドと目を合わせず、仏頂面だ。

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