第4話 合法ロリである小人族の憂鬱

 声をかけたら、3人が一斉に、俺を見つめた。


「た、助けてください!」


 そのままのシチュだと分かり、身体強化の魔法をかけた後で地面を滑るように近づき、驚いている1人を掌底で吹き飛ばした。


 ナイフを突き出してきた腕を逸らしつつ、相手の右脇腹へ拳を叩き込む。


 最初の1人が起き上がろうとしたので、一瞬で近づき、つま先で下から蹴り上げる。

 あごを跳ね上げられ、奴は後ろに倒れた。


「があぁああっ!」


 2人目は絶叫しつつ、激痛で落としたナイフを拾う。


 空間ごと把握していた俺は、準備していた小球による指弾でひたいを撃ち抜いた。


「がっ……」


 白目をむいた奴は、同じく気絶して、倒れ込む。


「あ、あの……えっ!?」


 お礼を言おうとした少女の腕をつかみ、そのまま引っ張った。


「話は後だ! こいつらが目を覚まして、仲間を呼ぶ前に、移動するぞ!!」



 少女の腕をつかんだまま、大通りを走った。


 他のエリアへ移動できる交差点に辿り着き、2人で呼吸を整える。


「あ、ありがとうございました……。私、望乃ののと申します」


 長い黒髪に、紫の瞳。

 まだ子供のようだが、美しい容姿。


 ゆったりした、民族衣装のような服だ。


「俺はジンだ……。ついさっき、乗合馬車でブレニッケに到着したばかり」


 それを聞いた望乃は、眉をピクリと動かした。


「まだクランに入っていないので?」


「ああ! 冒険者ギルドに顔を出したが。ここの事情も分かっていないし……」



 ――1時間後


 望乃に連れられ、図書館のような場所にいた。

 本棚が目立ち、長テーブルと椅子も。


 同じような、長い黒髪と群青色の瞳をした美少女が、あっさりと言う。


「うちのクラン、『叡智えいちの泉』は、『黄金の騎士団』の団長であるロワイド・クローに狙われていてな? あまりオススメできん。……こら、望乃! そんな、ふくれっ面をするな!」


 落ち着いた声でたしなめられ、横を向いた望乃は息を吐く。


 不思議に思って、尋ねる。


「ところで……あんたらは、妙に大人びているけど。ヒューマンか?」


 俺と話している少女は、首を横に振った。


「いいや、違うぞ? 私たちは小人族で、立派な大人だ! 俗に、スピリット、エレメンタルと呼ばれているが……。けれど、スピリットは精霊。エレメンタルとは、そもそも『四大元素の精霊』を示している。話が逸れたな? この迷宮都市で平穏に生きたかったら、別のクランを探せ! 望乃を助けてくれたことには感謝する。お礼として、何が欲しい? そうそう、遅れたが、私は団長の杠葉ゆずりはだ」


「ここは、何を目的としている?」


 片目を閉じた杠葉は、俺の問いかけに、息を吐いた。


 それでも、答える。


「古代にあったと思われる、の再現……。この世界は腕力の強い脳筋がトップで、次に弓術などのサポート役だ。私たちのような、盾どころか、荷物持ちにすらなれん奴は、使い捨てのクズというわけだな? 実際、ダンジョンの中で嬲り殺しや暴行される被害が後を絶たん」


 自嘲ぎみに言い捨てた杠葉に、疑問をぶつける。


「ここは、それほど困窮しているように見えないが……」


 再び溜息を吐いた杠葉が、答える。


「ご明察の通りだ……。私たちは『黄金の騎士団』の庇護下にいる。お前が倒したのはチンピラで、背後関係に考えが及ばない馬鹿だった。遅かれ早かれ、姿を消すだろう」


「ん? どういう意味だ?」


 後ろにもたれかかり、座っている椅子を鳴らした杠葉は、諦観したように説明する。


「平たく言えば、『黄金の騎士団』の団長が『こいつらは俺の女だ』と触れ回っている……。むろん、ストレートではなく、『叡智の泉』が傘下にいるとだけ。自分で言うのも何だが、ここは見目麗しい女が3人だけで、それも非力な小人族だ。大手を頼るのは当たり前だし、誰も不思議に思わん。私たちが『黄金の騎士団』の団長であるロワイド・クローの正妻や側室の候補であることもな?」


「その言い方だと、不満があるようだな?」


 俺の質問に、杠葉は上体を起こした。


「ああ……。先に言っておくが、私たち3人はロワイドに体を許しておらん! 社交辞令の握手だけで、それ以外は触られても……」


「話が見えないんだが?」


 杠葉は、遠い目になった。


「要するに、だ……。あの男は『私たちから望んで男女の関係になる』という展開に固執している。ブレニッケの最大手の一角だから、体面を気にしているんだよ……」


 俺は、冒険者ギルドでの一幕を思い出した。


「そういえば……。ロワイドという奴が出てきた時には、まさにアイドルだったな?」


「まあ、そういうわけだ! みんなに好かれ尊敬される英雄で、いずれ、この地で滅んだ自分の王国、ナインガルドを復活させるのが、奴の夢だ」


「王国?」


「うむ。これは私たちを狙っている事にも関係するが、奴も魔法に関係している一族らしい。古代のマジックアイテムだか、生まれ持った体質だかで、どの強者にも負けない力とスピードを併せ持っている。……大丈夫だ。知っている奴は知っている話。まあ、お前にベラベラと喋られたら困るが」


 話を整理すると、『黄金の騎士団』のロワイド・クローは、このロリ少女たちを囲っている。

 より正確には、囲ったうえで、相手が求めてくるのを待っているそうだ。


 どこまでも、傷のない英雄。

 そして、自分に続く英雄、言い換えれば、王族を復興するのが、奴の目標だ。


 杠葉が言うには、滅んだ国で資料も失われた今、自称を超えないがな?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る