第15話 案内と質問

 暁影あきかげさんを紹介したあと、紅輝こうきさんは予定があるからと何処かへ行ってしまった。

 まぁ、つまり二人っきりなわけで。他に誰もいないし。


 なんとなく気まずいなぁ…無口な人なのかな、さっきからずっと無言なんだけど…

 こういうときに話しかけられる度胸がほしい。切実に。



「……さっき説明があったが、俺は暁影。紅輝あいつの部下だ。種族は影鬼、出身は夏明かめいで、この店では古参の方になる。」


「か、海里かいりです。烏天狗の半妖?らしいです。よろしくお願いします。」



 ねぇ、やっぱり睨まれてない?ツリ目だからか、なんかそう感じるんだよね。

 本人が睨んでる気が皆無で、俺の杞憂だったら別にいいんだけど。俺、なにかしたっけ…



「…始めに言っておくが、別に睨んでいるわけじゃない。こういう顔だ。」



 あっ、そうなんだ。よかったー。

 結構気にしてる言い方だったし、なんか悪いことしたな…



「「……」」



 もしかしてこの人、人見知り…?

 いや、そんな予感がするんだよ、俺も人見知りだから。

 人見知り(俺)と人見知り(推定)が二人でいる…?


 前途多難だ…お互いに。









 互いに無言のままでいるわけにはいかなかったのか、暁影さんがお店の中を案内してくれた。

 まずやってきたのは書庫だった。


 巻物や本、書類が本棚にきれいに収まっている。



「仕事で使うから、最低限のことは覚えてもらわなくちゃならない。とりあえずここからここまで読んでおくこと。」



 そう言って指さされたのは一番手前にある本棚の上から下まで。…まじで?



「最終的にはここのものは全部読んでほしいんだが…とりあえず今言ったところまでは読んでほしい。どれくらいでこの量が読めるか把握したいから、急ぎ過ぎなくても大丈夫だが、内容は頭に叩き込んでくれ。」


「…まじですか。」


「内容に関して質問があったら聞いてくれ。遠慮はしなくていい。」



 若干テンションが下がりつつも次の部屋へ向かう。


 ちなみに、暁影さんはここにある巻物や本のタイトル、内容まで全部覚えているらしい。

 この書庫、図書館並みに広いんだけどな。暁影さんすごい。


 応接室、救急室に客間、フリースペース、キッチン、中庭に謎の扉(許可なく開けるなと言われた)…なんでもあるな、この建物。

 というか、外観は明らかに平屋なのに、階段があって二階に行けた。何故だ…


 そういえば、暁影さんとの会話量が増えた気がする。慣れてきたのかもしれない。部屋が多いし一部屋ごとに細かい解説付きで、結構会話しているから。


 とりあえず今日の感想は、「この建物めっちゃ広い。暁影さんはいい人。」に確定しそう。



「最後はここ、裏山だ。戦闘訓練や模擬戦、妖力を使う練習をしたりする。許可を取ればキャンプもできるし、夜は星が綺麗に見えるぞ。結界が張ってあるから獣は出ない。巻き込んだら大変だからな。」


「キャンプできるんですね。」


「あぁ。紅輝あいつに許可取ったら、いいって言われたからな。」



 言い出したのこの人かよ。人は見かけによらないな…



「今日の案内はここまでだ。あと、資料を読むことと並行して術を使う訓練もしてもらうことになるから、頑張れよ。」


「術って具体的にはどうするんですか?」


「そこは、自分の得意な分野によるからな…例えば、烏天狗だと空が飛べる、風が起こせるといったものから、オリジナルのものを使っているやつもいるな。基本的には始めに言った2つが多い。前例があったほうが教えるやつも多いし、イメージがしやすいからな。」


「妖力を使うときにはイメージが必要なんですね。」


「自分の中で明確なイメージを持つことで、妖力を出力するもの、例えば攻撃の術は威力がより上がるし、身体系のものはコントロールがしやすくなるんだ。」


「そういえば、詠唱的なものはないんですか?」


「あるにはある。詠唱をしたほうが術が簡単に発動できるが、威力、発動時間が無詠唱に劣る。詠唱と術を結びつけるクセが付く前に、始めから無詠唱で練習したほうがいい。もちろん詠唱を使うやつがいないわけではないし、守り人だと逆に無詠唱のやつの方が少ないが、渡世堂うちのやつは全員無詠唱だな。大規模過ぎる術には詠唱が必要だが、それは長しか使えないものだからあまり関係ない話だ。」



 案内が終わり、何個か質問してもいいですか、と聞くと、休憩がてら聞こう、とさっき行ったフリースペースに案内された。ソファーに座っていろと言われ、素早くお茶が用意されていくのを見る。

 すごいわ、この人。すごすぎて自分が不安になるわ。



 質問した内容をまとめるとこうだった。

 無詠唱のほうが威力が上がるのは、詠唱の場合だと詠唱から結果を連想するが、無詠唱だと己のイメージのみで術を使うため、術の内容がより明確に想像できるから。

 守り人が使う術は妖力ではなく異能を元にするらしい。妖は生き物を通して視る事ができるが、守り人は式神を使うんだとか。

 妖と守り人で得手不得手があるのかについては、例外が稀に存在するものの妖は結界を張ることが苦手だが、妖力が大きい者が多いため大規模な範囲攻撃が得意であり、守り人はその逆で、緻密な術を必要とする結界は得意だが、妖に比べて大きい力を持つものが少ないため攻撃は範囲が狭くなるらしい。ただ、大人数で術を発動することにより範囲は広げられるとのこと。


 めちゃくちゃわかりやすい解説だった。むしろ、俺がまとめたことで伝わりづらくなっている気すらする。


 質問が終わり、時計を見ると4時半になっていた。1時にここに来たから3時間半経っていることになる。質問しまくったからかもしれないが、部屋が多かったため思ったよりも時間が経っていた。今日はこれで終わりらしい。


 本は持って帰って家で読んでもいいのかと聞くと、持って帰ってもいいがデータ化されたものもあると言われたのでその方がいいと言ったらデータが入ったタブレットを渡され、質問用に暁影さんのメールアドレスももらった。ここに来て初めて現代を感じた瞬間だ。なんか、すごい違和感。


 話し合った結果、次にお店に来るのは明後日になったので、とりあえず読書を頑張ろう。

 こういう妖力とか、魔法とかの本って読むとなるとテンション上がるよね。


 読む冊数の多さをごまかすように、そう考えながら俺は帰路についた。

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