正式バイトへの道

第14話 バイト(仮)

「いらっしゃい、海里かいりくん。妖力はある程度コントロールできるようになってきたね。」



両親と話をした帰りにもらった鍵を使って、俺は渡世堂わたらせどうに来ていた。何にもない空間に鍵をさすようにすると、ガチャリと音がして扉が現れたのだ。


何でもありだな、此処…



「おかげさまで、猫に逃げられなくなりました!」


「…やっぱり気になるのはそこなんだ。まぁ、いいけど。」



なんとも言えない顔をされた。俺にとっては一番重要なことなんだけどな。



「今日来てもらったのは、今後について話したいからなんだけど、予定とか入ってる?」



今日は…20時からゲームする以外の予定はなかったはず。



「18時までに終われば大丈夫です。」


「了解。そこまではかからない予定だから大丈夫だよ。」


「今後、海里くんにやってもらうことは3つ。1つ目、仕事を覚えること。これはまぁ、どのバイトでも一緒だよね。2つ目、俺以外の2人、弟と妹ね。その2人から組紐をもらうこと。3つ目、幽世の偉い人に挨拶しに行くこと。この3つをやって初めて、君はここのバイトと認められる。」



1個目と3個目はわからなくもないんだけど、2個目はなんでだ?



「1つ目はそのまんまだからいいよね?詳細はまた後で。2つ目はねぇ、これは、組紐が証明書的な?役割を持つからだね。」


「証明書?ですか。」


「そうそう。これは幽世かくりよと、あとは守り人に有効なものだね。俺等みたいな役職を持つ者の証。これがないと海里くんは幽世で…良くて絡まれるね。悪くてこっちに帰れないかも。」


「えっ…」



なにそれこっわ。

帰れないってどういうことかな。誘拐される…とか?それ以上は考えないようにしよう。



「まぁ、みんなが君を認めたらいつかいらなくなるかもね。はい、2つ目の話は終わり。」



もうちょっと深堀りしてほしかったなぁ、なんて。怖いから聞きたくはないけど。



「3つ目は、海里くんが幽世で仕事をするために、というか、この子は俺等のとこの子ですよーって知らせるために一番手っ取り早いんだよね。仕事でも関わる方々だから、顔合わせも兼ねて。」


「偉い人って言ってましたけど、どれくらい偉い人なんですか?それによっては緊張の度合いが違うんですけど。」


「えっとね…どうせなら一から説明しようか、ちょっと待ってね。」



店の奥に入って行った紅輝こうきさんは、巻物のようなものを持って戻ってきた。


広げられたそれには、周りを海に囲まれた、見たことがないどこかの大陸の地図が乗っていた。島々が連なる日本とは違い一つの陸地になっているその大陸は、真ん中を中心としてバツ印を書いたように2本の線が引かれ、4つの国に分かれている。よく見ると、4つの国の国境が交わる真ん中に小さく5つ目の国があった。



「国…いや、大陸…?」


「んー…あんまりそういうくくりで考えたことないなぁ。日本の幽世って思ってもらえれば。」



多分一つの島国かな、なんて言いながら地図の文字を指していく。



「幽世は年中過ごしやすい真ん中にある地域と、春夏秋冬のうち一つの季節に特化した、それぞれに長がいる4つの地域に分かれてるんだ。一番北にあるのが冬の長が治める冬樹ふゆき、西にあるのが秋の長が治める豊秋れいしゅう、南にあるのが夏の長が治める夏明かめい、東にあるのが春の長が治める春杜はるもり。で、真ん中にあるのが團游せんしゅう。ここはみんなみやこって呼んでるけど。」


「都には長的な人はいないんですか?」


「ここの長はね、いるにはいるんだけどあんまり表に立たないんだよね、もちろん仕事はしてるけど。他の4つの地域から人が集まるところだから。特定の地域のやつが長です!ってなると不満があるやつが出てくるからねぇ。」



そんなことで不満が出てくるのか…長って大変だな。

っていうか、隠れながら長ができるのもすごいのでは…



「ここにはでっかい学校があって、各地域から子どもたちが学びに来てるし、長の代わりに警察がいるんだよね。都以外は、治安維持は長がそれぞれやってるんだけど。あとは……いろんな商品が集まるから、商業的に一番栄えてるのは都かもね。」



これあげる、仕事で役立つから都市名だけでも覚えておいで。と渡された地図を巻きながら、一番聞きたかったことを聞く。いや、なんとなく想像は付いてるんだけど。



「それで、挨拶に行く相手は誰なんですか?」


「各地域の長と、都の警察のトップ、運が良ければ都の長。」



ですよね、なんとなくそんな気はしてました。

っていうか都の長は表に出ないんじゃなかったの!?そんな簡単に会えるもんなの!?



「まぁ、まだ先の話だし。大丈夫だよ、多分。」



多分をつけないでほしいな、頼むから。



「じゃあ、まずは仕事を覚えてもらわなきゃね。教育係をつけるよ。暁影あきかげ。」


「はい。」



紅輝さんの影からズルリと出てきたその人は黒髪黒目、着ているシャツも黒かった。片方がかけた黒い二本角を持ち、もう片方には紅い組紐でできた角飾りがついていた。黒が多いからか、白い肌と耳飾りの紅がとても目立っている。



「こいつが君の教育係の暁影。漢字は暁に影ね。俺の部下で、君の先輩になる。なんかあったらこいつに聞いてね。」


「よろしくおねがいします。」


「…」



無言だ。なんか睨まれてない?気の所為?



「まぁ、悪いやつじゃないから。仲良くね。」



なんて言いながら笑っている紅輝さん。そして無言の暁影さん。


前途多難かもしれない…

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