第10話ケーキと今後の話

 水晶玉を手から話したら黒い羽は煙のように消えていった。


 マジで良かった。あのままだったらあの状態で学校行くとか…考えるだけで嫌だ。絶対目立つ。



「きれいな羽だったねぇ。俺も烏天狗の羽をこんなに間近で見たのは初めてかも。」


「…羽を見ただけで分かるんですか?」


「この国で黒羽を持つあやかしはあんまり居ないからね。それに、君に渡した水晶玉に種族名書いてあったよ。」


「ほんとですか!?」


「うん。あ、でも、日本語じゃないから読めないかもね。そこら辺は勉強しようか。」


「えぇぇ…」



 夏休みに勉強…聞きたくない…いや、学生としては正しいのか?学ぶ内容はさておき。



「さて。一段落ついたし、休憩にしよっか?おやつ持ってきたよ。」



 そう言いながら取り出されたのは毎日行列で滅多に買えないと噂されるお店のケーキだった。


 一回食べたことあるけどめちゃくちゃ美味しかった。甘いもの好きとしてはたまらない。



「っ!お茶入れてきます!」


「ありがとー。」



 そうと決まればキッチンへ!









 海里かいりがキッチンへ行ったのを確認すると、紅輝こうきは自分の影に向かって声をかけた。



「ねぇ。」


「何なりと。」



 影が揺らぎ、形を変える。二本の角を持ったなにかに変化したそれは、紅輝の声に応えた。



はくに連絡頼むわ。種族は確定、あとはこっちでなんとかするって伝えて。」


「承りました。」



 影がもとの形へ戻る。紅輝は何事もなかったかのようにケーキを箱から出し始めた。









 お盆をもって部屋に戻る。お茶とお皿とフォークが乗ってるから、ちょっと慎重に。



「ごめんね、ケーキもキッチンに持っていって出した方が効率良かったかも。」



 紅輝さんは箱からショートケーキを2つ出していた。



「あと1個違うケーキがあるから、もし良かったら食べて。あ、カロリー気になるとか甘いもの苦手だったら持って帰――」


「ください。」


「置いてく、置いてくから会ってから一番マジトーンで言わないで笑」



 いや、だって大好物の甘いものが目の前から奪われるって考えたらね。マジになるよね。そりゃ。



 ちなみにショートケーキはめちゃくちゃ美味しかった。今度絶対買いに行こう。



「一息ついたところで、今後の話をしようか。」


「はい。」


「さっき感じた妖力の流れは覚えてる?まずはそれを身体の中に仕舞ってもらおうか。」



 身体の中に意識を向ける。水晶玉を通して感じたからか、始めよりも結構簡単に感じることができた。


 身体の中を流れているなにか。ちょっとあったかい感じがする。


 …なんか身体の外にダバダバ流れてない!?


 もしかして狙われる原因これ…?早く仕舞おう。


 スイッチのオフのイメージで、外に出ている流れをせき止める。出来た、出来たけどこれ意外と難しいな…



「おぉー出来てるよ!これで外歩けるね!」


「これってずーっと続ける感じですか?」



 意外と難しいし、意識がそっちに持ってかれるんだけど。



「うん。しばらく…そうだな、個人差あるけど1週間ぐらい?続けてれば無意識に出来るようになるよ。」



 先はまだまだ長かった…



「これが出来るようになったら猫に触れるよ。」



「やります。全力で。」



「ほんとに猫好きなんだねぇ。…そうそう。親御さんに次会うのは何時?」


「えーっと…次会うのは今週末ですね。土曜日です。」


「じゃあそれまでに手紙出しとくよ。不安だったら一緒に行ってもいいからね?前日までに言ってくれたら行くから。」


「なにからなにまですみません…」


「いいのいいの。子供は甘えられるうちは大人に甘えとくといいよ。まぁ時と場合によるだろうけど。俺、見た目よりも年取ってるし。あ、一応連絡先交換しとこうか。」



 スマホで連絡先を交換する。この人スマホ持ってたんだな…なんとなく持ってないものだと思ってた。



「あとは組紐を渡して…親御さんと話がついたら、どっちに転んでも一回店においで。何時でもいいから。」


「分かりました。」


「じゃあ俺は帰るね。ばいばーい。」



 紅輝さんは嵐のように去っていった。


 そっか、一回親と話さないといけないんだな…


 そう考えると気分が沈む。久々に会えるからと楽しみにしていたのに。


 色々な考えがぐるぐると頭を巡る。なんで封印なんかしたのか。なんで言ってくれなかったのか。


 ………。


 よし、明日考えよう。とりあえずゲームしよう。


一回思考を放置して、俺はパソコンを起動させた。

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