第9話 水晶玉で種族調査

「さて、なにからしようかなぁ。」



 河守かわもりさんに、(あと猫に)働きます宣言をした次の日。今日は渡世堂わたらせどうではなく、俺の家に河守さんが来ていた。



「海里くん家綺麗だねぇ。ちゃんと掃除してある。俺等も見習わなきゃ。」



 元々の用件は俺を雇うということで結論が出たと思うんだけど、有言実行は大事だからね、とのことです。



「いや、だってさ?海里くんは力を制御しないと仕事もできないからさ?それをまず出来るようにしなきゃだから。」


「それはまじですみません…」


「別に謝んなくてもいいよー。誰もがみんな通る道だからね。」


「そうなんですか?」



 てっきり本能的にできるものだと思ってた。



「半妖は人とあやかし、両方の特性を持っているからね。二つの相反するものを併せ持つ分制御が難しい。俺等も練習したしね。」


「薄々思ってたんですけど、河守さんって妖なんですか?」



 薄々というかもう確実だけど。



「あれ?言ってなかったっけ。俺は鬼の半妖。はく―あの猫ね。あいつは猫又の半妖。あとは…まぁ、海里くんがそいつと会ってから言うよ。」


「あの猫も半妖なんですか…」


「そうだよ。俺の弟。あ、そうそう。俺のことは河守さんじゃなくて紅輝こうきでいいよ。うちの店兄弟でやってるから、河守さん三人いるし。」


「河―紅輝さんと、珀さん?と、あと一人は会ったこと無いですよね?」


「うん。俺の妹で、珀の姉だね。いつか会えるだろうから、楽しみにしといてね。」



 紅輝さんは弟妹のことを嬉しそうに話している。大好きなんだなぁとよく伝わる。



「あと他にもいるけど、今はこれくらいで。じゃあ今日の本題!制御の訓練をしまーす!」


「おぉー(パチパチパチ)」


「ちょっと棒読みじゃない?別にいいんだけど。」



 そんなこと言われても。



「妖に連なるものは、少なからず妖力っていうものを持ってる。人でもたまに持ってる子はいるよ。その場合、呼び方が違うらしいけど。見た感じ、君は妖力高いほうだと思うよ。」


「そんなこと分かるんですか?」


「なんか知り合いが、妖力が高い人の子のほうが美味しいって言ってたから。君めちゃくちゃ狙われてたし、多分。」



 こっわ。背筋ぞわぁってなったわ。


 紅輝さんは俺の反応を見て笑っている。



「そんな知り合いいるんですね…」


「世間は広いからね。で、その妖力を自分の意志で出したり閉まったり…スイッチのオンオフと一緒のイメージで。これができたらあとは応用を頑張る。」


「応用ですか…」


「うん。これは個人によるから、俺からはなんとも言えないなぁ。頑張って自分で研究してね。凄いことができるようになるかもしれないし、ならないかもしれない。」



 へぇー。なんか最近読んだラノベみたいでちょっとテンション上がるなぁ。



「じゃあ、妖力を意識するところから始めようか。この水晶に触ってね。」



 どこから取り出したのか、手のひらに収まる程度の水晶玉が出てきた。


 ほんとにどこから出したんだ、これ。



「触ると体中を巡ってる妖力の流れがわかるよ。その時に、なんの半妖かもわかる。まぁ、ある程度想像は付いてるけどね。だから多分物は壊れないと思う。」


「えっ」


「いやぁ、俺と妹のときは大変だったんだよねぇ。周りに影響を与える系のやつだったから。弟は違う意味で大変だったけど。海里くんのは、ちょっと広いとこでやれば大丈夫だと思う!」



 いや、そんな笑顔で言われてもな…


 渡された水晶玉を見る。うん。もうどうにでもなれ。


 …じんわりと何かが体の中を駆け巡っているのを感じる。これが妖力ね。なんとなくわかった。



「やっぱり感覚を掴むのが早いねぇ。…もうちょっとかな。」



 何が、と聞こうとしたその瞬間。


 ベキッ――


 鳴っちゃいけない音がした。しかも、俺の背中から。


 バキッ――


 えっ…痛くないんだけど。それはそれで怖くない?



「あ、あの!これってなんの音――」


「すぐに分かるさ。」



 俺の言葉を遮って紅輝さんがそう言った瞬間。


 メリッバキバキバキッ――バサリ。


 バサリ?新種の音だ。こう、翼を広げたような…



「よし、もういいよ。これで海里くんがなんの半妖かは確定だね。」


「えっもう分かったんですか?」


「あれ?気づいてない?背中見てご覧よ。」



 恐る恐る背中―というか後ろを見る。


 背中には、黒い羽がついていた。


「…ええぇぇぇぇぇぇ!」


「あはは。反応面白いねぇ。…ともかく、君は烏天狗の半妖だね。これからよろしく!」


「えっ…はい、よろしくお願いいたします。」



 …いや、この羽どうすんの!?

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