閑話 店主と猫の推測

 海里かいり渡世堂わたらせどうを後にしたその後。店主の紅輝こうきは店の扉を締めた。



はくー?いるー?」



 何も無い空間に向かって紅輝はそう呼ぶ。すると、一匹の猫が現れた。紅と蒼の2色の組紐を使った首輪をつけている。海里が会った猫である。


 そのまま猫は紅輝の下へやってきた。



「なに?こうにいさん。」



 猫が喋った。普通なら驚くべきことであるが、紅輝にとっては日常である。会話はそのまま続く。



「お前、海里くんに会っただろ。珍しいな、人見知りなのに。」



 人見知り、と聞くと猫は少し不服そうに鳴いた。


「人見知り言うな。後ろになんかいたから、追い払っといた。元々店の中には入れないだろうけど、あいつが後ろ振り向いたらヤバい系の奴だったから。気づいてたっぽいし、多分僕がいなくても大丈夫だったと思うけど。」


「そっかー。お前成長したなぁ。兄ちゃん嬉しい。」



 そう言ってにっこり笑いながらわしゃわしゃと猫を撫でる紅輝。満更でもなさそうな猫。全く知らない人が見たら癒やされそうな図である。


 最も、その猫は喋るが。そして、それに慣れている紅輝もまた、普通の人ではないのだ。



「まぁ、紅兄さんがお守り渡してたから、1週間ぐらいは持つでしょ。」


「そっか。じゃあ大丈夫だな。あいつの正体わかった?」


「…混ざってるね、あれは。先天性か後天性か…自覚がないっぽいし、見た感じ多分だけど先天性かな。僕らと同じ感じがしたし、誕生日あたりから嫌われたとも言ってたし。あの感じは猫に嫌われるよ。猫は目がいいからね。ここら辺の子なら特に。」


「やっぱりかぁ。でもな、あいつの名字は碓氷うすいだったぞ?不思議なこともあるもんだな。」


「そこら辺はこっちで調べとくよ。碓氷となると2日ほしいかな。」


「ん、頼むわ。」



 こうして夜は更けていく。


 人々が煌々と街を照らそうとも、その存在を忘れようとも、夜は未だあやかし達の時間である。


 そのことに少年が気づくまで、あと数日――

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